【ちきゅう部だより】ちきゅうのはじっこで考える vol7

こんにちは
どうぶつ基金事務局です。

本日は「ちきゅう部だより」の第7弾をお届けします!

今回、アウトドア&通訳ガイドの青崎涼子さんが語るのは、
緑美しい山の自然とそこで見ることができる野鳥についてのお話。

鳥たちをただ見るだけではなく、多彩な鳴き声や生息環境など
奥深き野鳥観察の世界を垣間見ることができます。

自然環境を守っていくには、まずはその自然について興味を
持ってもらうことが何より大切です。

この夏、ちょっと鳥の鳴き声に耳を澄ましてみませんか?
ぜひご一読ください。

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ちきゅうのはじっこで考える vol7:空を見上げて

野鳥についてもっと知りたい。
ここ数年のぼんやりとした願いでした。

山に行くと、最初は、山の名前や遠くの景色に気持ちが向きます。
カメラで言えば、広角レンズで景色をみているような感じ。
何よりまずは、景色全体を楽しみます。


最初は山の雄大な光景を楽しみ(写真はイメージ。アンドラにて)

その景色に慣れてくると、他のレンズで世界を覗いてみたくなります。
それまで持っていた広角レンズを、マクロレンズに付け替え、
足元を覗いてみるようなイメージです。すると、そこに咲いている花々、
気持ちの良い木漏れ日を作り出している木々とその葉っぱに目が向きます。

図鑑片手に、いつ、どこで出会ったかということを記録していくと、
山野草の咲く時期や場所が、徐々に頭に入り始めます。
同じ場所でも、違う視点から覗くと、今まで見ていたのとは
全く違う世界が広がっていて、世界はより深みを持ち始めます。


足元の花々に目を向けて(写真はイメージ。アンドラにてカタクリの花)

その次に気になるのが鳥。初夏のこの時期、山を歩けば、美しい声での
鳥のさえずりに出会います。しかし、鳥が植物と大きく違うのは、鳥は
素早い動きで飛び回っている。鳴き声は聞こえても、森の中に隠れていて、
なかなか姿は見えません。望遠レンズを付けて鳥を見たくとも、その
望遠レンズをどこに向けたらよいのか、分からない状況です。

さらに困ったことに、その鳴き声は、チュピチュピ、キュルキュル、
ケケケケと多種多様で、何度聞いても、なかなか脳内で再現できず、
図鑑で名前を調べることもままなりません。

鳥探しの本をめくると、「一筆啓上仕り候」だの、「焼酎いっぱいぐい~」
と、鳴く鳥がいるらしいのですが、そんな声聞いたことありません。

うーん、難しい。

一人で、登山の片手間に歩きながら鳥を追うことは、なかなかハードルが高く、
なんとなく、ずるずると、わからないまま、何年も過ぎていました。

この八方塞がりの状況をなんとかしたい、と、ようやく行動に移すことに。
5月のある日、私は、山梨県の西のはじっこ、南アルプスの麓町にある
早川町を訪れました。旧中学校を改装してできた宿泊施設に泊まりながら、
3日間にわたる、夏の野鳥観察会へ参加することにしたのです。


山梨県早川町へ。旧中学校が宿泊施設をベースに鳥探し

他の野鳥に詳しいベテラン参加者の方々が、大きな望遠レンズを準備して、
「アカショウビン」「オオルリ」を狙いたい!と息巻く中、
「野鳥が森のどこにいるのか、この目でいろいろ見てみたい。基本的な
野鳥の見方を教わりたい」という、ぼんやりとした私のリクエストを
受け止めてくださったのが、観察会のガイド、M本氏。

三脚をつけたスコープ片手に、ポケットがたくさんついたカーキ色の
カメラマンベストを着て、いかにも鳥の専門調査員という風貌の彼に
連れられ、「面積の98%は森林」という自然豊かな早川町の
森の隅々を訪れ、初夏の鳥たちを探す3日間となりました。

まず、針葉樹がみっしりと植林された、昼間でも薄暗い林道へ。
林の奥で何かがリズミカルに鳴いています。

「15m先、林の横枝にキビタキがいます」と、即座にM本氏。
その言葉を聞き、ベテラン参加者の方々は、首から下げている双眼鏡で
すぐにその姿を捉えたようです。が、私にはなかなか見えない…。

「見えないときには、自分の位置を少し変えてみてください。
声が一番クリアに聞こえる場所を探します。葉っぱ1枚が邪魔していて
見えないこともありますから。一番聞こえる場所を見つけたら、
次は少し目線の位置を変えてみて。高くしたり低くしたり…」

と、さらなるヒントを出してくれます。そおっと動きながら、一歩右に
ずれ、少し屈んでみると、果たして、黄色い服をきたキビタキ君発見!


森のピッコロ奏者と呼ばれるキビタキ(写真は当日のものではありません)
写真提供:南アルプス生態邑

図鑑で眺めていた綺麗な夏鳥は、本当にこの森の中にいるのか、
この鳴き声はこの鳥だったのか、と感動です。

M本氏が優しく口笛を吹くと、キビタキの歌声が少し変化します。

「ほら、僕の口笛に反応したでしょう。キビタキは気が強い子なので、
売られた喧嘩は買います。今鳴いているのは、彼の縄張り宣言なので、
自分の陣地にライバルがやってきたと思って、威嚇の為に鳴き方を
変えてくるんですよ。ただ、口笛はほどほどに。
必死に縄張りを守っている彼の邪魔をしてはいけません。」

「鳥はさえずるための自分のお気に入りの木が何本か決まっていて、
ソングポストと言われます。だいたい同じ時間に、同じソングポストに
やってきて鳴くことが多いので、その木を知ると、野鳥観察もしやすくなります」

彼の話を聞いていると、今までのっぺらと二次元だった杉林が、鳥を
主人公にして再編成され、輪郭をもって、三次元になっていくような
感覚を覚えます。鳥を見て、それがキビタキだとわかるだけではなく、
その生態を知る面白さ。何故初夏に雄の鳥が鳴くのか、この鳥は冬は
どこにいるのか、1日の間のいつ鳴くのか、どういう場所が好きなのか、
つまりどこに行けば会えるのか、私の脳内に次々湧いてくる疑問を
ぶつけると、M本氏は淀みなく答えてくれます。この森に住む鳥の姿を
具体的に思い浮かべられることの楽しさといったらありません。

興奮冷めやらぬまま、初日の観察会は終了。

夕方、ひとりで宿の周りを散策すると、ひときわ大きな声で鳴く鳥が、
一本の大木から聴こえる…。さっき教わったように、ちょっとずつ
動きながら、一番聞こえる位置を見つけ、高さを変えながら探すと…、
あ、木のてっぺんで体膨らませて鳴く茶色い鳥!ちょっとだけ見つけ方の
コツが掴めたようで、嬉しくなりました。後から確認すると、私が
見つけたのはホオジロとのこと。ウグイスが「法華経」と鳴くように、
鳥の鳴き声を人間の意味ある言葉に当てはめて言い換えるのを「聞きなし」
と言うのですが、このホオジロは、「札幌ラーメン味噌ラーメン」
「一筆啓上仕り候」と鳴いているのだとか…。


木の上にいたのはホオジロ(写真は当日のものではありません)
写真提供:南アルプス生態邑

翌朝。野鳥探しの朝は、想像以上に早いです。3時半起床、4時出発。
5月半ばの日の出は4時40分前後なので、まだ暗いうちから出発です。

「鳥は朝が大好き。日の出の前後30分間は、鳥たちが大合唱する時間帯
です。食事を始める前に、縄張り宣言をするので、一番賑やかな
時間なんですよ。」

「皆さんがみたいというアカショウビンは、カワセミの仲間。カエルや
虫を捕食するので、沢沿いが狙い目です。警戒心が強い子なので、
なかなか姿みせてくれませんが、朝は縄張りを守るためによく鳴いて
います。打ち上げ花火のようなキョロロロロロという鳴き声を出します、
あ、ほら今鳴きましたよ!」

まだ見ぬアカショウビンが虫探しをしているであろう様子を想像しながら、
聴覚を集中させると、森の中の打ち上げ花火、アカショウビンのさえずりが
聞こえてきました。スズメとハトとカラスだけじゃない。森の中には
何種類もの鳥たちがいて、5月、恋と子育てで忙しく動いています。

鳥がいるということは、彼らが生きていける餌や森が十分にあるという
こと。「豊かな森を守ろう」。よく耳にするスローガンです。守るべき
森には、たくさんの生物が、それぞれの命を精一杯生きているのだと
体感したとき、遠くにあったスローガンは、具体的な達成すべき目標
として、感じられるものです。


早川町にて。守るべき森の豊かさを感じられるのが野鳥観察の醍醐味

鳥観察は、人間の身勝手であってはいけません。
彼らの行動を理解し、邪魔しないエチケットを守ることも重要です。

朝の大合唱を楽しんだ後、車で移動し、集落の神社の裏の木に、
「コサメビタキ」が営巣している場所へ連れて行ってくれました。
コサメビタキは木の枝に地衣類を使って巣をつくり、カップルで
10日間の子育てをするのだそうです。

「コサメビタキは、目がくりくりっとしていて、本当に可愛いんですよ」
と嬉しそうに話すM本氏。


巣から顔を覗かせるコサメビタキ母さん(写真は当日のものではありません)
写真提供:南アルプス生態邑

ところが彼が連れていってくれた場所は、巣からはずいぶんと距離があり、
さらに、我々と巣の間には何本かの木が邪魔して見づらい場所。

スコープを覗けばその姿は見えますが、もう少し近くからみたいな、
と思ってしまう私です。私の気持ちを汲み取ったかのように、
M本氏は続けます。

「カラスは人の動きをよく見ています。我々の動きで、あそこに巣が
あることをカラスに悟られ、巣が襲われてはなりません。また、不思議
なんですが、鳥は、人が声を出さずとも、その”気配”を感じます。雄が
不信がって巣に戻れなかったら、雛たちが餌をもらえない。だから、
あまり近づきすぎたり、同じ場所に長居しないようにしながら
観察することが重要です」

そういえば、昔、アラスカでグリズリー(ヒグマ)観察をした時も、
同じことを言われました。国立公園に入ったら、全員が最初に
必ず受けなくてはいけないレクチャー。レンジャーから「100m以上
離れて観察すること。具体的には、熊が、自分の親指サイズくらいに
見える位置以上には近づかないこと」と、しつこく釘を刺されたのを
今でもはっきりと覚えています。

野生動物の観察は、生態系を感じる、考える、本当によい機会であるけれど、
彼らにストレスを与えないような観察方法も、これまた忘れてはいけない
配慮でしょう。野鳥の専門家であるM本氏は、誰よりも野鳥を愛する人
でもあり、そういう方に最初に手ほどきを受けられたのは幸運だなと
思いながら、この日の観察を終えました。


動物にストレス与えず観察するためにある程度の距離を保つこと。
スコープや双眼鏡は必需品です。

最終日は、「サンコウチョウ」を探します。

鳥知識ゼロの私は知らなかったのですが、尾が長くて目の周りは
コバルト色。鳴き声が「「ツキ(月)ヒ(日)ホシ(星)ホイホイホイ」
と鳴くので、三つの光、三光鳥と名がついたという、
なんだかロマンチックな夏鳥です。

暗い林が好きだから、と、山蛭の攻撃をかわしながら林の奥に進み、
じっと待つこと1時間ーーー、何度目かのホイホイホイという鳴き声を
聞いたあと、光の鳥は、その特徴である長い尾をヒラヒラさせながら、
遠くの木の枝にシュッと降り立ってくれました。


コバルト色のアイリングが可愛らしいサンコウチョウ
(写真は当日のものではありません)写真提供:南アルプス生態邑

さて、この3日間の観察会を終え、
私は、脳内の鳥観察のための望遠レンズを入手できたのでしょうか?

鳥のさえずりに対して耳は少し敏感になったような気がしますが、
レンズを合わせるのはまだまだ難しい、バーダー(鳥好きの人たちの
ことをbirder=バーダーと呼ぶそうです)としてはヒヨッコです。
それでも、見えぬ鳥の存在と生態を意識できるようになったのは大きい。

同じ地球上に、自分が住んでいる都会の片隅にも、何十種類もの
野鳥たちがいて、それぞれに精一杯生きているのだと知ることは、
地球の豊かさと不思議さを感じさせてくれます。
いつも思うのですが、自然環境を守るには、まず、その自然に興味を
持ち、体感することが何よりの最初の一歩。

皆様も、今度の山歩きは、双眼鏡をバックパックに忍ばせて、
鳥の鳴き声に耳を澄ませ、空を見上げてみませんか?

<文、写真(鳥写真除く)とも 世界のはじっこを旅するガイド、青崎涼子>

鳥写真提供:南アルプス生態邑

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あなたのご寄付が、地球を守ります。
知ることは、アクションの始まりです❣
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