【ちきゅう部だより】ちきゅうのはじっこで考える vol9

こんにちは
どうぶつ基金事務局です。

本日は「ちきゅう部だより」の第9弾をお届けします!

アウトドア&通訳ガイドの青崎涼子さんが語る今回の旅のお話、
眺めているだけで涼しさを感じられる氷河の写真の数々が登場します。

でもこの景色も、遠くない未来に消えてしまうのかもしれません。
地球温暖化と氷河のニュース、テレビで見たことはあっても、
どこか遠くの世界の話として思ってしまっていました。

今月、日本気象協会が気温40度以上は「酷暑日」とすると発表しました。
気象庁では35度以上を「猛暑日」としていますが、もうその表現では
足りないということからです。
私たちの身近な環境も確実に変化してきています。

いま何が起きているのか?氷河で起きている確実な変化について、
ぜひご一読ください。

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ちきゅうのはじっこで考える vol9:解ける氷河、変わる国境

皆様こんにちは。ちきゅうのはじっこを旅するガイド、青崎です。

これを書いているのが8月の上旬、日々ニュースでは、「今日も猛暑日が
続きます。熱中症にはお気をつけください」とアナウンサーが連呼する日々。
せめて気持ちだけでも涼しくなるように…、今日は、私が大好きな、
氷河に関わる旅の話を、涼しげな写真とともにお届けしたいと思います。

氷河といえば、最初にイメージされるであろう場所は、南米のパタゴニア、
北米のアラスカやカナダなど、極地に近い場所ではないでしょうか?
パタゴニアは私は未知の場所ですが、たとえばアラスカやカナダには、
観光客でも、ドライブや、観光船での氷河クルーズ、ちょっとした
ハイキングで、氷河を堪能できる場所が数多くあります。


カナダ サーモン氷河 悪路ドライブでたどり着いた場所

観光客が増えてきた1970年台、自然への影響を危惧した上高地は、
早くからマイカー規制を開始しました。現在、上高地へ向かうには、
下の集落で乗用車からシャトルバスに乗り換えないといけませんが、
そのシャトルバスも、低公害車量のハイブリッドバス。

車の排気ガスの影響を最小限に抑えようという絶え間ない努力のおかげで、
多彩な動植物、空気や水の美しさが今も保たれています。

いろいろな形で楽しめるのも良いところ。
高級リゾートの帝国ホテルから始まり、芥川龍之介や高村光太郎といった
文人も投宿していた、歴史ある温泉宿、さらには森の中のキャビンや
キャンプ場まで、上高地近辺の宿泊場所はバラエティに富んでいます。
私も、季節を変え、遊び方を変え、何度も足を運んでいる場所です。


アラスカ エグジット氷河 とっておきの1日ハイキングトレイル

遠くから眺めるのに満足し、もう少し近づきたくなった私は、
カヤックに乗って、フィヨルドの海へ漕ぎ出る旅をしたこともあります。
港町から5時間のボートでフィヨルドの中へ。カヤックに1週間分の
荷物を積み込み、ラッコを横目で見ながら、さらに奥へと進みます。

氷河の前(といっても安全のために1キロ以上離れていますが)まで
行き、突然、海へと崩れ落ちるときの雷鳴のような音や、崩れ落ちた
際に起こる波を海上の、小さなカヤックの上で受け止める体験は、
地球の息遣いを感じるような時間です。


二人乗りのカヤックで氷河湾を旅する


崩れ落ちる氷河を小さなカヤックの上で待つ時間

また別の機会には、飛行機で旅したことも。
アラスカの大地は、日本の4倍の大きさ。とてつもなく広大です。

道路の通っていない、車では辿りつけない場所へは、ブッシュプレーン
という小さな飛行機が用いられます。オートバイでいうところの
オフロード車みたいなものでしょうか?海上でも砂のビーチでも山の中
でも、どこにでも着陸できる魔法の飛行機。そんな飛行機に乗って、
チュガッチ山脈の中へ出かけました。湖畔でキャンプをした夜、湖岸へと
流れてきた氷のカケラを掬い取り、コッヘルへ。荷物の中に忍び込ませてきた
ウィスキーを注ぎ、氷の中の気泡がぱちぱち爆ぜる音を聞きながら、
この氷が閉じ込めた時間の長さを思いながら、なかなか暗闇にならない、
北の大地の夕方の夏の日でした。


氷河の気泡が爆ぜる音を聞きながら過ごした夜

氷河の上を、ロープをつなぎ、クランポンを履いて旅したことも。2週間、
ずっとずっと、白と青、2色だけの世界でした。氷河は常に動いていおり、
場所によってその速さが違うため、裂け目=クレバスができます。

深さ数十メートルにもなるというクレバスに万が一落ちた時、這い上がって
これるようトレーニングを重ねます。その際、クレバスへ意図的に
落ちるのですが、ふと横を見たときに目の前に広がった深い深い青色には、
吸い込まれそうになりました。

さて、こんな景色は海外だけのものなのかといえば、実は日本にもありますよ!
北アルプスや南アルプスの山々。3000m近い稜線まであがれば、氷河が
つくりだすカール(圏谷)と呼ばれる、アイスクリームをスプーンで
掬い取ったような、独特の地形が出てきます。これこそ、氷河の残していった景色。


南アルプス仙丈ヶ岳にて。このカールは、11万~1万年前の最終氷河期の時代の氷河の爪痕。

また、最近では、立山など北アルプスで、「万年雪だと思っていたけれど、
実は氷河」だった場所も数カ所発見されています。あれ、雪と氷河…?

はい、簡単に説明すると、雪は動きませんが、氷河は動いていく、のが
大きな違い。氷河は、冬、雪が積もって、夏の間もそれが溶けきらず、
次に降る雪で潰され、どんどんその重さを増していき、最初はふわふわ
していた雪の粒が、最終的に氷に変わり、その重さに耐えきれず、氷のまま
流れ出しはじめる、その、少しずつ動いている氷の川が、氷河なのです。


立山にあるこの内蔵助氷河は、2018年に氷河認定されたばかり。立山室堂から半日歩けば到着です。

さて、よく「最近、氷河が後退している」という話を耳にしませんか?
例としてヨーロッパに目を向けてみましょう。

スペインとフランスの国境を結ぶピレネー山脈には、現在24の氷河が
確認されています。ヨーロッパらしい、その雄大な景色を眺めながらの
トレッキング道も楽しいのですが、毎年後退が進み、この10年で23%
その面積を減らしており、あと10年、20年もしたら、氷河はなくなって
しまうとの報告も出ています。(注1)。氷河の近くを歩くルートなどでは、
10年前の地形図はもう役にたたないので、常に最新の地形図を持つように、
と現地の友人に忠告されました。


ピレネー最高峰アネト山氷河を見ながらトレッキング。
この氷河がなくなってしまう日も近い?


氷河の脇を歩くなら、最新の地図に買い換えろと忠告される(フランス シャモニーにて)

また、最近、こんな記事を目にしました。
スイスの領土がひっそりと広がる 氷河融解で
(2022年8月2日、ニューズウィークジャパン)
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/wz80hyempxe6/imdvi6zs/

端正な姿が美しいマッターホルン。スイスとイタリアの国境にある山です。
すぐ近く、3820mまでロープウェイで上がれてしまう展望台がありますが、
ここにあるテオドール氷河の後退が激しく、露出した岩の部分が変化し、
分水嶺のラインが変わったことで、スイスとイタリアの国境が100mずれた
との記事。なんと国境ラインまでも変えてしまう温暖化!なのです。


スイスの人気観光地、ツェルマットからロープウェイで上がれる、
欧州一標高の高いグレッチャーパラダイス。
このロープウェイの辿り着く先はイタリアなのかスイスなのか。

普段街中で生活していると、「最近の夏はどうも暑すぎる」「ゲリラ豪雨
最近多いなと思いながらも、一度室内に入れば、リモコンのボタンを
ピっと押すだけで、涼しく快適な室内で過ごせます。温度変化による
自然災害が増えているとはいえ、普段の生活では、そこまで差し迫って
考えずとも、日々はなんとなく過ぎていきます。

ですが、これは、よく感じることですが、地球のはじっこ…極地だったり、
山の上だったりにいると、地球の変化が、もっとクリアに、身近に感じられます。
この20年、氷河を近くで見続けていると、毎年確実に形を変え、やせ細って
きています。日々日々、地球は少しずつ、でも確かにその姿を変えている。

叫ばれる気候変動。とりあえずの暑さを乗り切るだけの、対処療法的な
工夫をしながらも、将来を見据えて、もう少し根本的に今できる
アクションへの舵取りを、社会全体で考える時が来ているのではないかと
感じる、氷河フリークの私でした。


このまま手をこまねいていたら、こうなるのか!?
2100年の未来天気予報(キャプチャは、環境省作成COOL CHOICEの動画より)
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/n8f6luyzl778/imdvi6zs/

<文、写真とも 世界のはじっこを旅するガイド、青崎涼子>

参考
注1 Pyrenees Glaciers Are Rapidly Disappearing
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/jxrvahe9s4z7/imdvi6zs/

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あなたのご寄付が、地球を守ります。
知ることは、アクションの始まりです❣
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/lvl6n9s9e6c6/imdvi6zs/

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