【ちきゅう部だより】ちきゅうのはじっこで考える vol11

こんにちは
どうぶつ基金事務局です。

本日は「ちきゅう部だより」の第11弾をお届けします!

今回、アウトドア&通訳ガイドの青崎涼子さんが語るのは、
昔からそのまま存在していると思っていた川の姿です。

くねくねと入り組んだ川、まっすぐ雄大に流れゆく川、
そういうものだ、と川の形に疑問を持つことはありませんでした。

そのまま存在する自然環境もあれば、
その環境を守るために手を加えられたところもあります。

日本各地には無数の川が存在していますが、
今まで考えもしなかった川の姿にふと目をとめてみませんか?

ぜひご一読ください。

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ちきゅうのはじっこで考えるvol11:動く川、動かない川

こんにちは。ちきゅうのはじっこを旅するガイド、青崎です。
今年はどうやら北海道にご縁があるようで、何度となく訪問しています。


車中からキタキツネを見かけると、北海道に来たことを感じる

この夏は、北海道の東、道東を歩く機会を得ました。どこに行っても、
本州にはないサイズの、大きな景色が広がる北海道ですが、なかでも
道東地域は、水平方向に大きさを感じる土地です。

摩周岳の東に、西別岳、という小さな山というか丘陵地帯があります。
地元の友人曰く、「親子連れがいくような気軽な山」。


西別岳登山口


なだらかな丘陵

20分ほどゆるやかな登山道を進み、後ろを振り返ると、思わず、
わーっと声が出るパノラマが広がります。

この辺りのシンボルとなる斜里岳がゆったりと横たわる北の方角を除けば、
あとは緑色鮮やかな牧場と、植林された防風林のカラマツが
パッチワークを作り上げ、その奥には、すーっと横に一筋、真っ直ぐな
地平線が地上と空を分けている。

北海道の大きさに包まれて、深呼吸したくなる景色。
おすすめ展望ハイキングルートです。


緑の大地と青い空を分ける地平線が、ぐるりと。

この、延々と横に広がる大地を這うように、小さな一本の川が
根室海峡に流れ込んでいます。名前はポー川。


(出典google map)

道東訪問の最終日、半日の自由時間ができ、何かできないかな、空港の近くには
何があるのかな、と、Google 地図をなんとなく眺めていたときに、
偶然目についた川です。地図の中で川がつくりだす流路が、あまりにも
自由気ままで、目が釘付けになりました。右に左に、Uの字を描きながら
クネクネと流れる川を地図上で見ていたら、気になってしかたない。

調べると、カヌー体験をさせてくれるようなので、早速予約をし、
車を走らせます。待ち合わせ場所のポー川史跡自然公園では、
地元のガイドさんが、船を用意して待ってくださっていました。

ライフジャケットを身につけ、念の為にと用意してくださった
蚊除けネットを被り、カヌーに乗り込みます。


流れはほとんどなく、静かな水面。上流に向かって漕いでいても、
抵抗はほとんど感じず、パドルを入れれば、スイ、と進みます。
でも河畔はかなりワイルドで、左右から木が草がモリモリと突き出ていて、
障害物競走のように上手に避けないとすぐにぶつかりそうに。


枝に頭をぶつけないよう、上半身も右へ左へ、屈んで、と常に動かしています。
さらに、イロハ坂なみに、右に左に、カーブが続いていくので、パドリングも
気が抜けません。まあ、そのほとんどは、私でなく、後ろで上手にガイドさんが
舵取りしてくださっているのですが。。。

「ほら、右側に見えているあの木、さっき左に見えていたの覚えていますか?
あそこのターンで、ぐるっと180度向きを変えたんですよ」

「他のお客さんの声が、見えないけれど、近くで聞こえるでしょう?
その茂みの奥に川が続いているんですよ」

「木に枯れ枝がぶらさがっているでしょう。雨が降るとね、
あそこまで水があがるんだよね」


ガイドさんの的確な解説、パドル捌きで、あっという間に2時間は過ぎていきます。
たった半日ではあるけれど、良い川旅の時間でした。

(蛇足ですが、カヌーは、人力で静かに動くので、モーター音など人工の音が
しないのが良いですね。川の近くを飛び回る鳥たちの声や、奥の湿原の葦が、
風で揺れて擦れる音まで聞こえてきます。景色の記憶の中に、音の記憶も
はっきりと残っているものだなと、今書いていて気づきました。)

さて、私は都内に住んでいます。趣味のジョギングでは、川沿いの道を
走ることが多く、たとえばルートの一つの神田川は、ポー川のように
気ままに蛇行することはなく、道路に沿って真っ直ぐに流れています。
川岸や川底はコンクリートでしっかりと隙なく固められているので、
水位が上下することはあっても、今日も明日も、来年も、10年後も、
変わらず同じ場所を流れていることでしょう。普段の生活でジョギングを
していても何も感じないけれど、蛇行ポー川を漕いだあと、改めて神田川を
見ると、人間の都合で、矯正されてしまっている窮屈そうな川の姿に、
ちょっと切なさを感じてしまいました。

「まっすぐ直線」は、自然界にはない形なのかな、と最初に思ったのは、
実はポー川が初めてではありません。その昔、アラスカを空から
見おろしている時でした。アラスカは北極海沿岸で石油が取れるので、
アラスカ湾のバルディーズまで、大地を貫くように、
1280キロの原油パイプラインが走っています。原野を縦断するパイプラインと
ダルトンハイウェイの直線、その二つの線をつなぐかのような、
川のラインの曲線との対比がとても印象的で、このとき初めて、本来、
自然な状態での川の形、常に変化するのであろう川の流路を意識しました。


最後に、もうひとつ、氾濫しないよう手を加えられた川の土手をご紹介します。


上高地、河童橋近くの梓川です。
ここは国立公園の特別保護地区。「特別保護地区」ですので、自然は厳格に
保護される場所ですが、でも一方で、「国立公園」でもある。国立公園には、
「人が利用する」という目的があり、その目的を損なわないよう、
最低限の手が加えられることもあります。
そう、よく見ると、この梓川は、金網と石で護岸されています。


右下に注目。石積みと、それにかけられた金網が見えますか?

言われないと気づかないほど慎ましやかに、景観を壊してもおらず、
このくらいなら許容範囲じゃないかな、と思われる方も多いでしょう。

では、もう一つの情報を。川の周囲には、ケショウヤナギという、
北海道とここ上高地にしかない、貴重なヤナギの木が生えています。
このヤナギが好む場所が、「洪水によってしばしば冠水し、それ以外の
時には乾燥する河原」らしく、護岸され、洪水を起こさなくなった
梓川では、なんとこのヤナギの数が減っているらしいのです。

梓川の護岸に反対、真っ直ぐな神田川はよくない、と言っているのではありません。
全てはバランスです。

氾濫しない安全な川を得たのと引き換えに、減るヤナギの数。
何かを手にしたのと引き換えに、何かを犠牲にしているかもしれない。
見えるものだけでなく、その後ろの見えていない物事にも想像力を膨らませ、
大きな視点で物事を見られる力が重要ではないでしょうか。

河童橋近辺の、変わらず綺麗な上高地の景色。
橋の横にモリモリと生えている、ブロッコリーのような樹形のケショウヤナギ。
今日も明日も来年も、そして10年後も、きれいな梓川の景色とともに、
このケショウヤナギたちも、変わらずモリモリと生い茂っていてくれることを祈ります。

<写真、文 青崎涼子>

参考
上高地自然史研究会「上高地の砂防と自然」
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/d7p137m6h3ny/imdvi6zs/

上高地自然史研究会「上高地梓川の河床地形変化とケショウヤナギ群落の生態学的研究」
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/x8ryz616p360/imdvi6zs/

ポー川史跡自然公園
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/40gpb2m0dqp7/imdvi6zs/

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