【ちきゅう部だより】第8回 コンゴのゴミ問題

こんにちは
どうぶつ基金事務局です。

本日は「ちきゅう部だより」コンゴからのシリーズ・第8弾をお届けします!

長年コンゴ共和国に住んでゾウと人間の共存問題に取り組まれている
萩原幹子さんから届くお話。

今回は、ゴミのお話です。

日本では自治体がゴミの収集をしてくれるため、それが当たり前と
思いがちですが、世界ではそれはスタンダードではありません。

コンゴにおけるゴミにまつわる様々な問題はまさにリアルで深刻です。
人が生きていく上で切り離せないゴミの問題。

遠く海外の問題は解決できませんが、自分の身の周りでできることは
気をつけていきたい、そう思いました。ぜひご一読ください。

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第8回 コンゴのゴミ問題

今回はこれまでの動物のことから環境問題へ枠を広げて、
ゴミ問題について書かせていただきます。

日本では分別ゴミのルールが始まってもう長いですね。規則を真面目に守る
人が多い日本では、ゴミを分類別にゴミ箱に捨てるのもすっかり当たり前の
習慣になっています。それでも、私はアラフィフの世代ですが、子どもの
ころを思い出してみると、当時は「ポイ捨て禁止」なんていう普及の看板が
あちこちで見られていました。チューインガムの包装紙にも、噛み終わったら
紙に包んでゴミ箱へ、と書いてあって、意識してその通り守っていたものです。
昔は日本人も乗り物の窓からごみを捨てたりしていた時代もあったのです。

コンゴでは、そんな半世紀遅れたゴミの感覚がまだ健在しています。
それでも地球規模で環境問題への関心が高まってきて、私がコンゴの都会に
住み始めてからここ15年で、ゴミに関する状況は大きく変化してきました。

森で仕事をしていた私が結婚を機に首都のブラザビルで暮らし始めた
2008年当時は、街にいわゆる「レジ袋」が氾濫していました。
市場や商店、あらゆるところで買い物をするたびに黒い手提げビニール袋
に商品を入れてくれていました。飲み水、自家製ヨーグルトや生姜ジュース
など液体もビニール袋に入れて冷凍・冷蔵されて道端で売られていました。
持ち帰る出来合いのおかずなども、汁物であってもビニール袋に
入れられていました。そして公共スペースにゴミ箱は無く、これらの
ビニール袋は文字通り、ポイっと道に捨てられまくっていました。


フフというキャッサバ芋を粉にしたものもビニール袋に入れて売られます

家庭ごみはというと、家庭でもゴミ箱がそもそも無く、床や地面に落として、
掃き掃除をする、というのが常識でした。例えば庭先で殻付きピーナツを
いただき、剥いた殻はどこへ捨てたら?と聞くと、その辺に落としてくれていい、
と言われたこともあります。掃いて集めたゴミは敷地の隅で燃やしたり、
段ボールや大きな缶(ペンキなどの使用後の空き缶)に入れたりします。
たまったゴミや燃やせない生ごみは、住宅街をリヤカーで歩いて回る
「ゴミ収集人」にお金を払って持って行ってもらっていました。コンゴでは
首都ですらごみ焼却所がないため、これらのゴミは一体どこへ運ばれるの
だろう?と思っていたら、ゴミの山となっている地帯へ捨てられるだけ
でした。車ではなく人が手押し車で運ぶわけなので、当然遠くへは行けません。
ゴミ収集所となっている場所は広場の片隅やときにはただの道端、
お墓のそば、学校のそば、川の土手など住宅街のあちこちにありました。


ゴミ回収人。バケツ一杯100フラン(約25円)払います


住宅街の空き地にあるごみ捨て場。乾季には誰かが燃やして、有毒な煙を出すことも

道端に捨てられるゴミや、ゴミ捨て場となっているゴミは蓄積していき、
雨が降ったあとの水はけが悪くなり、水たまりができやすく、蚊が発生して
不衛生になったり、長年の蓄積で地滑りの原因となったりしていました。


ある工事現場で、重機で土を掘ると下のほうからもビニールゴミが出てきました

先進国ほど個包装や過重包装が無いとはいえ、輸入される食料や日用品からも
必ずゴミが出ます。ゴミは増え続ける一方で、政府には対策は無いのだろうか
と思っていたら、翌年2009年から、ドイツ企業がコンゴ人を雇用して街の
清掃とゴミ回収を始めました。実は計画が決まってから実現するのに5年も
かかったそうです。清掃は住宅街の隅々までというわけには行かず、
首都中心街の舗装道だけでしたが、みるみるうちにあちこちの街並みが
すっきりしました。この会社は郊外に土地を買っていて、ゴミ処理場を作る
予定でした。ところが、たった1年で、地方自治体と企業の間で、請求書の
未払い、業務不履行と対立しあう問題が生じてしまい、労働者も給料未払い
のため騒ぎを起こしたりして、企業は撤退してしまいました。その後は
道路清掃、ゴミ収集は地方自治体が独自に労働者を雇って行うように
なっていました。外国企業が始めたことを取り入れたのはよかったです。


市民も自分の家の周りは掃き掃除します。まだまだ舗装道路から脇に入ると
土の道が多く、砂がどんどん舗装道路に出てきてしまいます

さて、2012年に画期的な変化が起きました。6か月前から予告があり、
「食品・飲み物販売のための『生物分解しない』ビニール袋の生産、輸入、
販売、使用禁止」という政令が実施されました。日本のようにごみの
焼却処理をしないので、「燃やしても有毒ガスを発生しないビニール袋」
では解決にならないのですが、土の地面に捨てられて生物分解するならOK
というわけです。が、そのような生物分解する代替品のビニール袋は登場
しませんでした。実質、ビニール袋の使用が全面禁止になったのですが、
コンゴ人は国家権力でもって監視しなければ、なかなか決められた規則を
皆が守るわけではありません。当時は警官が市場を監視してまわり、
レジ袋を見つけると商品ごと没収して踏みつぶしてしまったそうです。

レジ袋やビニール袋に慣れた生活から突然切り離されると、私でも戸惑いが
ありました。商店ではついつい、レジ袋に入れてくれるのを待ってしまって
いました。自分で袋を持って行っていない場合は、代替品としてその後
今でも普及している、不織布の袋を買わなければなりません。また、
量り売りの豆などを買うときも、紙で円錐を作って入れてくれるように
なりましたが、家に帰ると別の容器に入れなおさなければなりません。


今や常識となったレジ袋に代わる買い物袋。左は耐久性があって何度も
使えます(200フラン、約50円)。
右は不織布、汚れたらポイと捨てられています(50フラン、約12円)

ここでちょっと補足説明しますと、コンゴでは新聞があまり普及しておらず、
古新聞というものがほとんどありません。新聞は発行されているのですが、
官庁街で若干売られているだけで、古紙にするほど出回っていないのです。
そのため、素朴な茶色い紙袋も包装用に売られるようになりましたが、
気軽に食品や商品をくるんで売るための新聞紙は、なんと輸入ものが
使われています。商売人は、わざわざ輸入された古新聞を包装紙として
買うのです。私は興味深くその新聞紙をいつも眺めるのですが、英語、
韓国語、アラビア語などさまざま、しかも一度日本の新聞紙もあって
びっくりしました。また、住宅街では「軒先商売」として、家の前で
自家製の揚げ菓子や炒ったピーナツを売ったりするのですが、その包装には
昔からよく、学校のノートが切り離して使われます。もう終わった学年の
ノートは、包装紙と化してしまうのです。衛生的にどうかな?と気になる
ところですが、雑菌に強いコンゴ人たちは気にしないようです。


揚げドーナツを売っている女性も包装用に古新聞を買っています

実はこのビニール袋禁止令というのは世界でもアフリカのほうが進んでいた
ようです。2004年に南アフリカが初めて、次いで2005にはエリトリア、
ルワンダが2008年に、いまやタンザニア、ボツワナ、ウガンダ、モーリタニア、
モロッコなど含め34か国で禁止か何らかの措置が取られているそうですが、
コンゴは中でも早く実現したほうだと言えます。先に書きましたように、
焼却施設が無いので、禁止するほうが手っ取り早いのです。が、決定しても
うまくいっていない国も多々あるようです。

https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/ehn826bdo7s0/imdvi6zs/

ビニール袋禁止後、3か月もすると市民もみな慣れてきて、買い物かごを
持参したり、買い物袋を買ったりするようになりました。その習慣は
今も続いています。が、以前ほど氾濫してはいないものの、徐々に闇で
ビニール袋が再び売られるようになっていきました。レジ袋ではなく、
飲み物や小さなトマトといった野菜、粉ものなどを入れるためです。警察も
一斉摘発したこともありましたが、今や黙認してしまっているようです。

ゴミ対策の変化はまだ続きます。2015年から、地方自治体に代わり、
サウジアラビア、アラブ首長国連邦、モロッコ、南アフリカ、などにもある
多国籍企業「アヴェルダ」がゴミの回収、道路の清掃を始めました。
これまでの地方自治体の対策と違って、今回は道路を清掃すると同時に、
街のあちこちに大きなゴミ収集箱を設置し、市民にもゴミは道端に捨てないで
ゴミ箱に、家庭ごみも燃やさずにゴミ箱に出すように、とキャンペーンアニメ
をテレビで流して普及宣伝していました。そして定期的にゴミ収集車がゴミを
回収して回りました。市民のあいだでも「アヴェルダ」はすっかり定着した
のですが、ポイ捨ての習慣は簡単には止まず、「アヴェルダが拾ってくれる
からいいのだ」と言って車の窓からごみを捨てる人たちもいました。

が、数年かかって、かなりの人々が通りがかりにあるごみ箱にゴミを入れる
ようになってきました。これまでバスに乗っていて、おやつなどを食べたゴミを
窓から捨てる人はよくいましたが(今も結構いますが)、今ではゴミをバッグ
の中にしまう人も見かけるようになりました。


ブラザビルで一番賑やかなメインストリートを清掃する、ブルーのユニフォームを
着たアヴェルダのスタッフ

アヴェルダのゴミ箱には家庭ごみだけでなく、あらゆる粗大ごみや伐採した
木の枝なども捨てられるようになってきて、ゴミ収集車は数年たつとかなり
劣化し、故障が相次いだようで、だんだんゴミが収集されずにゴミ箱の周りに
あふれるようになってきてしまいました。時には道路にもかなりゴミがはみ出し、
車の通行の妨げになることもありました。「こんな汚い状態になるぐらいなら、
昔リヤカーが各家庭のゴミを集めて回ってくれてた頃のほうがよかった、
せっかくアヴェルダのゴミ箱に慣れたのに」という市民の声も聞かれました。
それでも遅れながらも、ゴミ回収車の回収は続いています。


アヴェルダのゴミ箱にゴミを捨てに来ている人、ゴミ箱もすでにいっぱいに。
この枯れ枝は、地方から運び出される木炭の包装に使われています


ゴミ箱自体もかなり傷んでしまっています。商業の盛んなエリアでは
このようにすぐゴミ箱がいっぱいになってしまいます

集めたゴミは首都から約30キロ離れた郊外のアヴェルダの敷地に集積され、
どんどん山が高くなっています。ゴミからバイオガスを生成するという
話があったのですが、予算の問題で実現は難しいようです。


中央に台地になっているのがゴミの山。私が首都に出るとき通る国道沿い
にあり、特に雨季にはあたり一帯にひどいゴミの臭いがします

また、ビニール袋のゴミが減った代わりに、ペットボトルの問題が出て
きました。それまではペットボトルはミネラルウォーターだけで、
ジュースは瓶入りのファンタやコーラだけだったのですが、ドリンク産業が
発達して、いろいろな種類のペットボトル入りジュースが売られるように
なりました。それでも、すべてのペットボトルは拾い集められて、自家製
ジュースの販売用などに再利用されるのですが、繰り返し使われて傷むと
ゴミになります。ペットボトルの分別収集は無く、ゴミ箱に捨てられない
ものも多く、溝に捨てられて川に流れてたまってしまいます。ペットボトル
などのプラスチックがマイクロプラスチックとなって川や海を汚染している
ことが今や世界で大問題となっていますが、ペットボトルが減る傾向は
残念ながら全くありません。ただ先進国よりもよいのは、ペットボトルに
限らずあらゆるプラスチックの容器がそのまま再利用されていることです。
市場にはゴミ捨て場から回収してきた容器を専門に売る人たちもいますし、
買う人もいます。例えば植物の苗を作るのにも使われるのです。


水やジュースのペットボトルを回収して、自家製ジュース(ビサップや
生姜ジュース)を凍らせて売っています。市販のジュース250フランに
対して100フランなので手軽で人気です


雨が降ったあとで雨水に流されてきたペットボトルが川べりにたまっています

市民レベルでゴミに対する意識が変わるにはいかに時間がかかるかという
ことを見てきましたが、リサイクルのことを考えるコンゴ人もいて、
プラスチックごみのリサイクルに取り組む企業が存在します。若者が始めた
Congo-Plastという企業は、廃棄プラスチックから建設に使うブロック、
屋根、敷石を造って販売しています。建売住宅の多い日本では素人が家の
建材まで関与することはほとんどありませんが、コンゴでは自分でセメント
や鉄筋、タイルなど建材を買って、大工さんに頼んで家を建てるので、
こうしたリサイクルの建材を選んでもらえる可能性も高いのです。

また、3年前に開校した新しい国立大学には応用化学科があり、ゴミの
リサイクルについても学生たちが研究テーマに取り上げているのを、
第一期生の卒業式でテレビでも紹介していました。

コンゴの現在の環境大臣、正確には環境・持続可能な開発・コンゴ盆地大臣
は女性で、とても発信力のある人です。今年6月5日の世界環境デーには、
プラスチックごみが世界的に問題になっていることに触れ、リサイクルを
推進したいと言っていました。が、具体的な政策まではまだ無いようです。
一方、清掃に関しては、毎月第一土曜日に役所や議員などが率先して市民を
動員し、よく清掃大会をやっているのがテレビニュースでも流れています。

私が行っている森の中の村では包装によく森の葉が使われていて、都会とは
対照的にエコロジーな生活です。それでもどんどん町から工業製品が持ち込まれ、
徐々に村にもゴミが増えていっています。森の生活というのは木と土で作った
家を始めとしてあらゆるものが自然に返りますし、葉などのゴミは燃やして
終わりです。もともとそういう常識だった人たちが、都市化した生活でゴミの
ことを考えるようになるには、やはり普及活動をずっと続けて行かなければ
ならないのだろうと思います。


森のそばの暮らしではほうきもアブラヤシの葉を使います

萩原幹子
プロフィール
日本で会社員をしながら野生生物保全論研究会(JWCS)など
複数のNGOのボランティアを経て退職後、
2002年イギリスのケント大学で保全生物学修士取得。
2004年から3年半、中部アフリカのコンゴ共和国オザラ国立公園で、
マルミミゾウの畑荒らし問題の調査にたずさわり、そのままコンゴ共和国在住。
現在はフリーランス・コーディネーター、JWCSのプロジェクトスタッフ。
2021年から再びオザラ国立公園でマルミミゾウの畑荒らし問題に関するプロジェクトを実施中。

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