あまみのさくらねこプロジェクトを終えて

こんにちは。あまみのさくらねこ病院の足立です。
先日6月30日をもちまして無事、あまみのさくらねこ病院が閉院となりました。昨年8月15日に開院してからおよそ10か月半の間で755頭の不妊手術、15頭の耳カット(飼い主希望)、計770頭のさくらねこが当院から誕生しました。


奄美大島は今回初めて訪れる場所でしたので、島の雰囲気など全くわからず、開院前は本当に猫が集まるのか、受け入れてもらえるのか、不安で一杯でした。しかし、いざ始まってみると、毎日病院で受付を担当して下さる方や、ノラ猫の捕獲をして連れて来て下さる方、どうぶつ基金のポスターを自分のお店に掲示して下さる方など、多くの島の方が協力して下さりました。また、島外からもボランティア参加される方が多く来島され、ノラ猫の捕獲や病院のチラシ配りなどをお手伝いしていただきました。島外からのボランティアさんをみて、島の方が「奄美の猫が注目されている」と意識された方もいらっしゃいました。

このようなマンパワーの他にあまみのさくらねこ病院に欠かせなかったものが、皆様からのご寄付や支援物資でした。不妊手術・ワクチン接種・ノミダニ駆除薬・耳カットを無料で行うための費用や、院内で使用する事務用品、島の猫のためのフードまで、すべて支援者様から頂いて病院を運営することができました。以前Facebookにも書きましたが、病院で必要な物品をAmazonの欲しいものリストに掲載していただくのですが、掲載からすぐに病院まで届くその早さに驚きました。それだけ奄美の病院への注目や期待度が高い表れだと感じ、励みにもなりました。今回ご寄付をいただいたフードで閉院までに使いきれなかった分は、島の猫のために島内ボランティアさんにお渡しさせていただきました。また、ペットシーツやご寄付で購入した医薬品は、今後のどうぶつ基金の出張手術で使用させていただきます。改めて、このプロジェクトにご賛同いただき、ご寄付やボランティアをしていただいた方々に厚くお礼を申し上げます。


奄美市では以前から鹿児島大学共同獣医学部と包括連携協定を結び、同大学の獣医師と看護師が来島して定期的にTNR活動を行っています。今年度も計8回の手術を予定されているとのことでした。こちらの活動には市民からのノラ猫の持ち込みも受け付けているそうです。どうぶつ基金が以前から主張しているように、TNR活動というのは継続するということが非常に重要です。一度猫の数が減っても、不妊手術率がその地域の7~8割を下回るとまた徐々に増加することがわかっています。あまみのさくらねこ病院にボランティアとして協力していた方々のうち、今後もTNRに協力したいという方にどうぶつ基金から猫の捕獲機をお渡しさせていただきました。今、奄美市内を歩いても耳カットしているノラ猫が殆どですが、どうしても捕まらない子やいつの間にか他から放浪してきた雄猫、心無い人に捨てられた子猫などの話をたまに耳にしました。活動を長く続けていくのは大変ですが、他の地域の例を見ていても必ず結果が付いてくるので、行政も島民の方も是非継続していただければと思います。


個人的な話になりますが、奄美以前は基本的に病院にいて患者様側から来ていただいて臨床や手術を行う、いわば一般の小動物臨床を行っていました。定期的に行う出張手術と呼ばれる地方へのノラ猫や保護猫・保護犬への手術もすべて地元のボランティア団体にすべてセッティングしていただいた上で、獣医は手術のみという形でした。なので今回の奄美のように、直接保護主様や飼い主様と話をすることや、依頼があった場所まで捕獲機を運んでしかける、という体験は初めてのことでした。ちょっと怖そうなおじさんが手作りの捕獲機を作って一生懸命ノラ猫捕獲に協力してくれたり、小学生の子達がみんなでノラ猫情報を教えてくれたりと、病院内にいたままでは体験できなかった地元の人々との関わり合いを経験することができました。


この関わり合いの中で気になったのが、島民の方が行政の活動についてなんとなくしか知らないこと、世界自然遺産登録について諸手を挙げて賛成できないという方が多いとのことです。上記でも書いたように行政の方でも以前からTNR活動を行っているのですが、捕獲機をしかけても行政の名前が入っていると殺処分されると勘違いして捕まっている猫を逃がしてしまったり、地元の人がどのように協力すれば良いのかわかりにくく、行政の間との距離を感じました。猫は地元に根付くものなので、地元の人が一番よく知っています。どの猫がどこに、何時頃でてくるというのは私達のような外部の人間が歩き回っただけではわからず、その集落の人に尋ねるとすぐ何十匹も見つかったということがありました。また、来院される方に世界自然遺産登録についてアンケートに答えていただいていたのですが、反対や分からないという方も少なくありません。あまみのさくらねこ病院に猫を連れてくる方が対象となっているので、少なくとも猫がある程度好きというバイアスがかかり、“希少種を守るためなら猫の殺処分を行う可能性がある“ということに対して抵抗がある方が一定数いることも納得できます。しかし、いわゆる猫好き派以外でも、登録することで奄美の自然が逆に失われるのではないかと危惧されている方や、一部で勝手に騒いでるだけと静観されている方もいらっしゃいました。


この奄美滞在中に、外来種について・世界自然遺産登録について多くの書籍を読むことができました。その中で小笠原諸島の希少種を守るためのノネコ保護活動について書かれた「小笠原が救った鳥-アカガシラカラスバトと海を越えた777匹のネコ」(有川美紀子著、緑風出版、2018)を読んでまず感じたことは、住民が主体となっているということでした。自然遺産登録に関してまず住民が自分たちの島についてどうしたいかを考え、それから行動につなげていくというスタンスがあったからこそ、小笠原の希少種も猫も守ることができたのだと思います。このように書くと、小笠原の規模だから奄美は違うと指摘されそうですが、結局生活の単位は集落ごとなので奄美でも住民にもっと主体的に参加できる環境を提供したり、行っている政策を丁寧に説明してもらうのは難しいことなのでしょうか。


もう一つ、滞在中に奄美のあちこちに見かけるゴミがとても気になりました。海岸の漂流物から街中のゴミ、バスの窓から見える山中の粗大ごみ、世界自然遺産推薦地は奄美の一部で、それ以外の地域は手が回っていないだけなのかもしれませんが、実際に奄美に来る観光客は推薦地域かそうでないかは意識せず、奄美大島全体を見て評価するはずです。また、そのゴミによって希少種が被る被害もあるはずです。盲目的に上からの指摘に従うのではなく、細かい調査や住民からの意見を元に細かく修正をしていかなければ、いざ世界自然遺産登録となっても空虚なものになるのではないのでしょうか。
この一年間で色々な方にお世話になり御恩を感じたからこそ、今後奄美の島民と動物と自然が本当の意味で上手く共存することができるように切に願っています。

あまみのさくらねこ病院
足立萌美

 

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