【ちきゅう部だより】ちきゅうのはじっこで考える vol6
こんにちは
どうぶつ基金事務局です。
本日は「ちきゅう部だより」の第6弾をお届けします!
アウトドア&通訳ガイドの青崎涼子さんが語る旅のお話、
今回は雄大な大自然の島・屋久島です。
一度は訪れてみたいと思わせてくれる絶景の数々ですが、
大自然に足を踏み入れるということは訪れる人間にとっても
きちんと守るべきルールがあります。
今回はトイレ事情から自然を守るということを学べるお話。
すでに訪れた方もこれから訪れたいと思っている方も
青崎さんの臨場感のある写真とともに学ぶ屋久島トリップです。
ぜひご一読ください。
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ちきゅうのはじっこで考える vol6:Leave No Trace 屋久島のトイレ事情
飛行機を降りて最初に感じたのは、「ここ、南国だ」。
鼻腔を、暖かくて甘ったるい匂いが抜けていく。
湿気のある、でもなぜか不快ではない、トロリとした空気が肌にまとわりつく…
屋久島の空気は南国だった
4月のある日、私は、朝一番に羽田を出発し、
鹿児島で小さなプロペラ機に乗り換え、念願の屋久島の地に降り立ちました。
今まで本の中で、写真集で、また自然好きの何人もの知り合いから、
その素晴らしさを聞かされてきた場所、屋久島。
ようやく降り立つことができて、期待に胸を膨らませながらの、
1週間の旅の始まりです。
有名すぎて今更説明するまでもないですが、屋久島は、
鹿児島の佐多岬から南西60キロに位置する、日本で6番目に大きな離島。
周囲ぐるりと一周すると、約130kmほどの大きさです。
世界自然遺産で、国立公園で、九州最高峰の山である宮之浦岳を持ち
洋上のアルプスと呼ばれるなど、アウトドア好きをくすぐる要素が満載。
もののけ姫の舞台、苔の森として知られる白谷雲水峡や、
樹齢2100年以上といわれる巨大な縄文杉はとても有名なので、
なんとなく緑色の苔の森と、巨大な屋久杉だけをイメージしていた私。
南の島という第一印象は自分でも意外でしたが、
ウミガメの産卵地として知られるいなか浜まで足を延ばすと、
東京よりも明らかに強い日差しの下、キラキラの海面が待ち受けていて、
この島の魅力は「森と巨木」だけでなく、
もう島全体が自然の宝庫なんだと気付かされます。
いなか浜の美しいビーチ
到着日の快晴はどこへやら、翌日は、雨の音で目が覚めます。
そう、雨の島、屋久島。
林芙美子が記した「屋久島は月のうち、三十五日は雨…」という言葉通りでした。
東京の年間降水量1500mmに比べ、屋久島のある地域では、
年間8000mmにもなるという雨量も納得かな、の降り方。
容赦なく降り続ける雨が、地面を叩きつけています。
それでも私は雨具を着込み、森を歩きに出かけます。
一度森の中に入ると、巨木たちが四方八方に枝を伸ばして天然の屋根を
作ってくれているので、それほど濡れません。
逆に森を覆い尽くしている苔たちは水を含み、キラキラと輝いていて、
むしろ雨でよかったと思わせるような森でした。
雨の森を歩く
夜、食堂のおかみさんが、
「この時期の雨は木の芽流しの雨、って呼ばれていてね。
雨が降るたびに、どんどん春が進んでいく。緑が濃くなっていくのよ。
一体何色の緑色があるのかっていうくらいにね」と教えてくれました。
木の芽流し、素敵な言葉です。
春、日に日に、森は緑の色味を増していきます
今回はあまり予定を作り込まずに出かけた旅でしたが、
絶対に外せないと決めていたのが、奥岳の縦走。
屋久島の真ん中には、九州最高峰である、標高1936mの主峰宮之浦岳を含め、
1800m級の花崗岩でできた山々が連なっています。
宮之浦岳へは、頑張れば日帰りもできますが、途中には避難小屋も数カ所あるので、
寝袋と食糧を担ぎ、ゆっくりと時間をかけて縦走することに。
数日分の荷物と期待でいっぱいのバックパック
屋久島に生えている大きな杉全てが「屋久杉」と呼ばれるわけではありません。
屋久杉は、樹齢1000年以上(!)の杉だけを指し、それより若い木は
目の前にいきなり現れる巨木の姿は、小杉と呼ばれるそうです。
森の中を歩いてカーブを曲がるたび、私が想像するより遥かに大きな幹回りの
杉がどーんと現れ、文字通り、口をあんぐり開けて見とれてしまいます。
小杉でも屋久杉でも、もうどっちでもよくて、
1000年という時間の単位で生きている木々の迫力に、背筋が伸びます。
これは屋久杉か小杉なのか
オレンジ色のヌルヌルとした幹が艶かしい、
ヒメシャラの森の中にある避難小屋で一泊。
屋根があるだけでありがたい避難小屋
翌朝は、さらに標高を上げ、いつの間にか森林限界を越え、
花崗岩と笹藪が広がる別世界を堪能します。宮之浦岳山頂も独り占め。
海抜ゼロ、シダが生える亜熱帯の森から始まり、テラテラした固い葉っぱの
照葉樹林を抜け、巨樹の杉の間を抜けてきた道は、気づけば高山の植生の中を
縫うように続いていて、この小さな島の、標高によってどんどん変わりゆく
植生の多様さを楽しみます。
奥岳一帯は、笹が生え高山の雰囲気
さて。数日間の山の縦走をするとき、常に気になるのは
「どこで飲み水を補給するか」なのですが、
この島のすごいのは、飲み水には一切困らないところです。
出発前、情報収集をしていたとき、
「どこでも飲めるよ、どこにでも湧いている」と、
山道具屋のお兄さん、地元でガイドをする友人、観光案内所のお姉さん、
誰もが口を揃えて言っていた、本当にその通りでした。
山の上、稜線上を歩いていても、常に水で道は濡れていて、あちらからも、
こちらからも、水が湧き出ています。念の為と浄水器も持参していたのですが、
必要ないなと感じ、途中からは沢の水をごくごく飲みました。
とても軟らかく、まろやかな水が喉を通り抜け、私の身体を満たしていく。
暖かい海水が高い山にぶつかって雨となって落ちてくる。
水滴は山肌の花崗岩を滑り落ち、森で浄化されて川へと集まり、そして海へ戻る。
冷たい沢水を触ると、その見事な自然のサイクルの一部に
自分も溶け込んでいくような解放感を感じます。
生命の水、屋久島は困ることはない
もうひとつ、山に数日間入るときに、無視できない重要な問題…
トイレについて、お話したいと思います。
私がアメリカの野外学校で学んだEthic(エシック。道徳、倫理と訳されます)
の中に、Leave No Trace (リーブノートレース)という考え方がありました。
豊かな自然環境を永続させていくために、自分が大自然に入ったとき、
環境に与えるダメージを最小限に抑えるための行動原則が7つあるのですが、
その3つめが
Principle 3: Dispose of Waste Properly
(原則3:ごみは適切に処理しよう)
という項目です。
ごみ、には、人間の排泄物も含まれており、アメリカ(しかも、私がいたのは、
人がほとんどいないアラスカ州)では、こう教わっていました。
「水辺から70歩離れた土の層に、深さ18センチのキャットホール(猫の穴)
を堀り、用を足す。終わったら穴を埋める。使用した紙は自然に戻るのに
時間がかかるから、穴には埋めず持ち帰る」。
ここ屋久島は、アラスカに比べれば遥かに人が入ってきます。
環境省の平成27年のデータによると、宮之浦岳へは年間2万人弱、
一番ポピュラーである縄文杉へは年間6万人が訪れているようです。
休日には1日で1000人の人が、水や電気設備のない登山道を歩きます。
これだけの人が皆キャットホールを掘るわけにもいかない。
縄文杉へ行く途中には、おがくずを使うバイオトイレや、
し尿を浄化剤を使って再利用する循環型トイレが設置されています。
縄文杉へ行く途中のきれいなバイオトイレ
5箇所ある避難小屋には、常設トイレもありますが、こちらはポリバケツに
溜められたし尿を、人力やヘリコプターでの搬出。お金も手間もかかります。
この問題を解決するのが、さらなる方式、「携帯トイレ」持参。
山に入った人が、責任を持って里まで持ち帰る「携帯トイレ」方式を
強力に推奨しているのを目の当たりにしました。
下の地図を見るとわかると思いますが、常設トイレを残しつつ、
携帯トイレ、山岳トイレの設置の方が多い。
この携帯トイレは、宿屋観光案内所、お土産物屋さんでも販売されていて、
登山道のし尿問題に、島全体で取り組んでいるのを感じました。
屋久島トイレ設置状況
(出典 屋久島世界遺産センターhttps://www.env.go.jp/park/yakushima/ywhcc/tozan/keitait.htm)
いろいろ調べていくと、屋久島の奮闘ぶりが感じられます。
屋久島が世界遺産に登録されたのが1993年。
世界遺産効果で来島者数が倍に増え、それまでは地中に埋めていたし尿を、
これ以上は処理しきれないと人力搬出へ切り替え。そして携帯トイレの導入、
さらに、2017年からは、処理にかかる費用を利用者にも負担してもらうべく
日帰り登山者1000円、山中泊の人は2000円の山岳部環境保全協力金を
呼びかけ始めます。(それまで無料だったのも驚きですが)
島の経済を回すためには観光客、登山客を受け入れつつ、大自然を
このままの形で未来へつなげていく方法を、島全体で探っているように感じました。
使わせてもらう側としては、環境にインパクト(影響)をなくすためなら、
乱暴に言えば、そこに行かなければいい、足を踏み入れなければ良いのですが、
それでも私は山に入りたい。であるならば、その場所場所が提示する、
負荷を減らすための方法を事前に知り、きちんとルールに従うのは、
最低限のマナーでしょう。
この森を50年後、100年後も変わらずに
美しい大自然のご紹介から、
最後はトイレの話で終わってしまい、なんだかな…ですが、
屋久島の携帯トイレ方式に、いろいろ感じることの多い旅だったのでした。
最後に。
旅の終わりに投宿していた宿からすぐの場所にあった集落の温泉。
源泉49度掛け流しと、熱いのだけれど、その泉質と、時間が止まったような
ノスタルジックな雰囲気が気に入って、毎日通っていたのですが、
入り口でいつも迎えてくれた看板猫がさくらねこで、
あ、どうぶつ基金!と、ちょっと嬉しかったことを加えておきます。
気持ちよさそうにまどろむ温泉の看板猫
参考
屋久島世界遺産センター「登山におけるマナー」
https://www.env.go.jp/park/yakushima/ywhcc/tozan/manner.htm
屋久島山岳部保全利用協議会
http://yakushima-tozan.com
<文、写真とも 世界のはじっこを旅するガイド、青崎涼子>
縦走終えて
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