【ちきゅう部だより】ちきゅうのはじっこで考える vol12
こんにちは
どうぶつ基金事務局です。
本日は「ちきゅう部だより」の第12弾をお届けします!
今回のテーマは奄美大島。
そう、どうぶつ基金のライフワークともいえる奄美のお話です。
奄美大島の美しい自然は素晴らしい。
だけど、その裏側には命の選別ともいえる悲しい現実があります。
その現実の理不尽さをどう考え、どう行動していくのかー。
長らくその地で暮らしてきた猫と希少動物、そして人と希少動物。
共存していくためには、現実を正しく知ることが何よりも重要です。
今回のちきゅう部だよりと併せて、ぜひ以下の記事をご一読ください。
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/20cx19j0q8k2/imdvi6zs/
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ちきゅうのはじっこで考えるvol12:書を捨てよ、旅へでよう
こんにちは。ちきゅうのはじっこを旅するガイド、青崎です。
10月末、初めて奄美大島へ行ってきました。
訪問の日程がかなりタイトなスケジュールで、また、仕事の中身は、
屋内での文化体験が主だったため、自然に浸る機会も学ぶ時間も十分に
なかったのですが、それでも、その本当に限られた時間の中で出会った
自然の世界は、もう全てがキラキラしていて、一瞬でこの島に魅せられました。
その場で立っているだけで、力強くグングンと迫ってくる
野生的な奄美大島の自然の魅力を、今日はお少しでも伝えできたらと思います。
<多くの固有種、絶滅危惧種>
さて、まず奄美大島の場所ですが、鹿児島の南の島。
ちょっと南に下がれば沖縄、ちょっと北に上がれば屋久島、という位置です。
島の大きさとしては佐渡島に続き2番目に大きい奄美大島を中心に、北から
喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島と続く島々を「奄美群島」と呼びます。
奄美大島の空港を出ると、ガイドさんが「うがみんしょうらん~」(こんにちは)
と出迎えてくれますが、この聞いたことのない独特の言葉遣いに、
早くも、本土とも沖縄とも違う独自の文化を感じます。
そして、肌を撫でる風がトロリと暖かい。10月末の東京は、そろそろ
ダウンジャケットに手を伸ばしたい寒風が吹いてくる時期でしたが、
こちら奄美は、薄手の長袖1枚、いや、半袖でも十分に気持ちよい気温でした。
ここは、年間平均気温22度、年間降水量2800mmと、暖かく雨の多い
亜熱帯海洋性気候。森の中には、トトロが傘として持っていそうな
クワズイモや、細かなレースのような葉で青空を覆うヒカゲヘゴ、
パイナップルの実と間違えそうなアダンなど、見たことのない
エキゾチックな南国の植物がワサワサと生えていて、旅情を誘います。
<自然の浄水器、マングローブ>
滞在中、もっとも自然の中に入り込んだ時間は、住用マングローブの
林へのカヤック体験でした。奄美大島には、西表島に次いで日本で
2番目に広いマングローブ林があります。海の近くなので、潮の満ち引き
によって見られる景色が違うのですが、今回は満潮時にだけ現れる、
マングローブ林のトンネルへと艇を進めます。
と言いながら、恥ずかしいことに、この時までマングローブがなんなのか、
きちんと知らなかった私です。「あの、よく暖かいところにいくと海辺に
生えている、蛸足みたいな木…」と、漠然としか認識していませんでした。
カヤックからの低い目線で、手を伸ばせば届くほどの近さで目にするのは
初めてです。マングローブトンネルの奥まで進むとカヤックのパドルを止め、
地元のガイドさんが解説してくれます。
「マングローブというのは、固有の木の名前ではなく、海水と真水の境目、
つまり汽水域に生える植物全部のことを言います。世界には70種類以上の
マングローブがあると言われていますが、今みえているのは、主にオヒルギ
とメヒルギ、という2つの木です。大きい葉っぱの方がオヒルギ、
アカバナヒルギ とも言います。赤い花見えますか?小さな葉っぱのほうが、
メヒルギ。こいつら、すごいんですよ。
私たちは、海水は塩辛くて飲めないでしょう?
樹木も同じです。海水でなく真水が必要です。
でもここは、海が近いので、海水が入り込んでくる場所。(水をちょっと
舐めてみました。海水ほどではないですが、ちょっと塩っぱかった!)
では、どうやって真水を得るのか?
まず、メヒルギは、根っこに強力なフィルターを備えていて、根っこで
全て濾過して、真水だけが上がってきます。根っこが浄水装置になっているんです。
オヒルギの方は、フィルターはあるのですが、ちょっと能力が弱い。
で、多少の塩水は上げてしまうのだそうですよ。でも、葉っぱみてください。
枝ごとに1枚だけ、黄色い葉っぱみえますよね?この葉っぱが犠牲になって、
すべての塩分は、ここに溜め込まれるんです。もう塩を貯めきれない、
となると、葉を落とします。
あまり人気のない汽水域に生きる場所を決めたマングローブは、
こんな特異な能力を使って、真水を得ているんですよ」
おお!たしかに。目の前の木は、ちらほらと黄色い葉っぱがついているでは
ないですか。そして、水面に浮く黄色の落ち葉。植物の生きる知恵、
生存戦略には驚かされるばかりです。
「今日は満潮なのでこうやってマングローブトンネルくぐりを楽しみましたが、
次はぜひ、干潮時にいらしてください。潮が引いたときだけ現れる干潟に
上陸して、ミナミトビハゼや、ミナミコメツキガニを観察するのも楽しいです。
ここのカニは、横向きでなく真っ直ぐ歩きます。また、あと1ヶ月もすると、
奄美大島にしか生息していない、リュウキュウアユが見られるようになります。
絶滅危惧種の大切な魚なので、町をあげて保護活動をしています。小学生も
川のクリーン活動に来たり、産卵の時期になると、河川工事をストップ
させたりして、鮎を大事に見守るのが私たちの役目だと思っています」
マングローブのトンネルの中カヤックを漕ぐ、それだけでもワクワク感が
あって楽しいです。ですが、地元のガイドさんの自然解説が加わることで、
その楽しさは想像力を刺激され、見える景色が重層的になります。
姿は見えなかったけれど、すぐ近くにいるはずの生物を思い描くことができ、
この地の豊かさと貴重さに思いを馳せることができる。自然の中で遊ばせて
もらうときの、インタープリテーション(自然解説)の重要性を再認識しました。
カヤックで川の上にいたのは、正味1時間ほどの短い時間でしたが、
奄美大島が、世界自然遺産に指定された場所であることを肌で感じる
ことのできた、貴重な時間となりました。
<アマミノクロウサギとどうぶつ基金>
地図をもらおうと観光案内所に立ち寄ると、地図の隣には、
アマミノクロウサギハンドブックと、運転注意のチラシが置いてありました。
このウサギは、ここ奄美大島と徳之島にだけ存在する遺存固有種。
絶滅危惧種に指定されている貴重なウサギです。200万年前、ユーラシア大陸や
日本本土と陸続きだったこの島では、大陸ではとっくの昔に絶滅してしまった
動物が、まだ残っている(=遺存種と呼びます)。その最たるものが、
国の天然記念物にもなっているアマミノクロウサギ。最近では、世界遺産に
登録されたことで観光客の数も増え、それに伴い、観光客のレンタカーに
ウサギが轢かれる交通事故が増加していて問題になっているのだとか。
車で村落を走っている時、ガイドさんが説明してくれます。
「道路脇に棒が立てかけてあるのが見えますか?ハブ棒です。島の人間は、
常にハブを意識しながら暮らしています。みなさんも、道路から外れて
茂みなどには入らないようにしてくださいね。厄介なハブを駆除しようと、
昔、マングースがこの土地に放たれました。でも、人間の思惑通りには
いかないものです。マングースは、ハブよりも、アマミノクロウサギを
餌にしてしまったんですよね。なので、2005年から、「マングースバスターズ」
という専門集団が、マングース捕獲を始めました。それが功を奏して、
ここ近年、マングースの目撃情報はほぼなくなりました」
この地球上にいる生物全ては、それぞれに関係しあっていて、本当に微妙な
バランスの上で奇跡のように成り立っている生態系。それを気軽にコントロール
してしまおう(できるだろう)という人間の考えの傲慢さを感じる話です。
と、ここでふと、どうぶつ基金のウエブサイトを思い出します。私が書いている
このページは「ちきゅう部」になりますが、そういえば、「あまみのさくらねこ」
プロジェクトページもあったはず… そうそう、このページです。
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/20cx19j0q8k2/imdvi6zs/
なんとなく記憶にあっても、きちんと読んだことはありませんでした。
自分の世界とは遠い場所の話だったからです。でも、奄美大島に来て、
クロウサギの存在を身近に感じた今初めて、クッキリとした輪郭で、
どうぶつ基金の奄美大島でのプロジェクトを興味深く追うことができました。
天然記念物のアマミノクロウサギを守りたい、というのはわかります。
でも、世界遺産の登録というキラキラした飴玉欲しさに、歯車が一つ
狂ってしまったのでしょうか。昔から島にいて、クロウサギとも共存してきた
はずの、ノネコの駆除殺処分計画。マングースの減少とともに、
クロウサギの数は順調に増加していて、ノネコがウサギの生態系を
脅かす存在にはならないはずなのに。
生態系を自由にコントロールできる、これが必要だからあれは不要、
と考えてしまう人間の傲慢さの一例が、この「あまみのさくらねこ」ですね。
傲慢さによって、必要のない命の奪われ方をする猫がいるなんて、切ない。
<問題意識を自分のものにするために>
魅力あふれる奄美大島、3日間は短すぎる滞在でした。さらに今回は屋内に
いることも多く、野外でいた時間は多くありません。それでも、豊かな生態系を
目の当たりにすることで、絶滅危惧種や固有種の保護、微妙なバランスの上に
成り立っている生態系、それをコントロールしようとする人間、そんな問題を
浮き彫りにして、声をあげ続けるどうぶつ基金の活動、観光客の無知からくる
悲しい交通事故などなど、色々と考える視点、入口のきっかけを与えてもらえました。
社会への問題意識というのは、机上で本を読んでいるだけでなく、
現場で見て聞いて、肌で感じるそのヒリヒリとした感覚こそが、
人を心から突き動かす動機付けになることが多いのではないでしょうか。
ー 書を捨てよ、旅へ出よう
<写真、文 青崎涼子>
参考
奄美群島国立公園(環境省)
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/avy8n0q6bxp1/imdvi6zs/
環境省 沖縄奄美自然環境事務所
奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/gny7v4dqkvs8/imdvi6zs/
国の天然記念物アマミノクロウサギ、交通事故死増加 観光客増で?
(毎日新聞10月11日)
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/bcopwxftjreo/imdvi6zs/
国立環境研究所「マングローブと環境問題」
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/34pwirsuaxeo/imdvi6zs/
人間の傲慢さの極地…世界遺産・奄美大島の「猫3000匹殺処分計画」はなぜ止まらないのか
(2022年2月プレジデントオンライン記事)
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/aheqj0y1judf/imdvi6zs/
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https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/jobwopj8qud6/imdvi6zs/
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