【ちきゅう部だより】第12回 コンゴのツーリズム事情
こんにちは
どうぶつ基金事務局です。
本日は「ちきゅう部だより」コンゴからのシリーズ・第12弾をお届けします!
長年コンゴ共和国に住んでゾウと人間の共存問題に取り組まれている
萩原幹子さんから届くお話。
今回はコンゴにおける観光事情のお話です。
自然、動物、魚だけではなく風習や人物といったことまで
バラエティに富んだ要素がそこにはありました。
なかなか旅行で訪れるにはハードルが高そうな場所ですが、
萩原さんから語られるコンゴへの旅、しばし行った気分になって
ぜひご一読ください。
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第12回 コンゴのツーリズム事情
コンゴで暮らすのは結構たいへんな事情を2回にわたってご紹介しました
が、観光で行くなら、楽しんでいただけるところです。といっても、
アフリカのツアーを専門に実施している旅行会社のパンフレットを見ても、
コンゴのツアーは全く無いと言っていいほど、まれです。そして首都
ブラザビルの空港に降り立っても、ツーリスト向けの案内も何も無いため、
戸惑ってしまうかもしれません。
今回はそんなコンゴのツーリズム事情をご紹介します。
アフリカと言えばやはり、サファリツアーのイメージですね。広大な
サバンナを屋根のついたオープンカーで走り、ゾウ、ライオン、キリン、
シマウマなどを見る。ところが熱帯林のアフリカは、このイメージとは
全く違っています。第4回(2023年7月号)にも少し書きましたが、
森の中では動物に会える頻度が非常に低いため、たくさん動物を見られる
と期待して行くと、がっかりしてしまうでしょう。コンゴに動物を見に
来られる場合は、動物が棲むその熱帯ジャングルの雰囲気も楽しむつもり
でお越しいただくのがよいと思います。
動物を見るために訪れるのはやはり国立公園です。コンゴの観光名所に
なっている代表的な国立公園、保護区4か所、それぞれの特徴をご紹介します。
コンゴ共和国と周辺の国立公園・保護区:今回ご紹介する場所が赤字です
1.オザラ・コクア・ロッシ国立公園
Parc national d’Odzala-Kokoua-Lossi
コンゴの国立公園でも群を抜いて大きな、日本の福島県ほどの面積をもつ
この国立公園は、昨年2023年に世界遺産に登録されました。
私が初めて調査で来るようになった2004年ごろは、森の中の数か所に
ツーリスト用に質素なテントロッジが建てられていて、食料は持参して、
料理人に作ってもらう方法でした。その後ドイツ人が設立したツアー会社
とコンゴ政府が契約し、ゴージャスなロッジとリッチな食事も楽しめる、
富裕層向けのエコ・ツアーが実施されるようになっています。見られる
動物は、マルミミゾウ、ニシローランドゴリラ、森林バッファロー、
シタツンガ、サル類などです。サバンナ地帯は車で、そして森の中は
川をボートで、うっそうとしたジャングルに入っていきます。川の中を
歩いているマルミミゾウに遭遇できる可能性もあります(冒頭の写真は
この国立公園でボートから撮影されたマルミミゾウ)。ヒョウもいます
が会うのは難しいです。
ゴリラは、かつてはバイと呼ばれる塩分を含んだ開けた湿地帯に出てくる
のを遠くから眺めるだけでしたが、現在は、ガイドが前日にゴリラの寝床
を探知しておき(毎日寝る場所が変わるのです)、早朝に行動し始める
ゴリラをトラッキングできるサイトが開かれました。(座っているゴリラ
の近くまで行けることで有名なのは、ルワンダやウガンダのマウンテン
ゴリラです。ニシローランドゴリラは樹上にいることが多いのです)
そのゴリラに会えるスポットにはもう30年以上コンゴでニシローランド
ゴリラを研究している、スペイン人の女性がいます。写真家の夫も一緒です。
2018年に日本から来られたご夫婦の首都でのお迎えを担当したことが
ありますが、ツアー代金は10日間で一人100万円を超えていました。
日本からコンゴまで2日がかり、そして首都から公園は740kmと陸路
では遠いため、専用機で2時間、公園内のベースキャンプに飛びます。
費用が高いだけあって公園での待遇もアクティビティも良かった、と
満足されていました。
欧米から大富豪とも言えるような人々が来るため、ガイドは南アフリカ
から来た、その道に経験のある白人です。地元のコンゴ人でもガイドは
できるじゃないか、と思うところですが、公園自体のことはよく知って
いて話せたとしても、世界の色々なことを知っている人々と相対して
話せるような経験が無くお客さんに物足りなさを与えてしまうから
しょうがないんだろうな、と思いました。料理人やサービス係には
コンゴ人の若者たちが雇用されています。
ツアーのお客さんには事前に要望を聞くようになっていて、動物、自然
だけを楽しみたいという人と、現地の人々の生活や文化も見てみたい、
という人もいます。現在はツアー客は公園内に着いて、隣接する村を
素通りして観光スポットからスポットへと移動するだけで、村人たちの
生活や文化に接することはほとんどありません。7月~9月の夏休みの間
には、村の男の子が成人する割礼祭りが盛んに行われるので、村人たち
は観光客が見物料を払って見てくれたら収入になる、と歓迎なのですが、
めったにそういう機会も無いようです。
ツアーで行くには日本の旅行会社を通して、または直接、カンバ・アフリ
カン・レインフォレスト・エクスペリエンス(https://kambaafrica.com/)
に申し込みます。国立公園に7泊、11泊、18泊のコースがあります(飛
行機の運行の都合上)。たまにバックパッカーが村に陸路でたどり着く
こともありますが、公園内は必ずガイドと一緒に入る必要があります
ので、飛び入りでちゃんと観光するのは難しいです。
2.レジオ・ルナ保護区 Réserve de Lesio Louna
こちらは首都から車で3時間でゴリラに会える、貴重な観光サイトです。
入り口が2か所あり、一つ目を入ると、高い丘の上の道からハート形の
「青い湖」を眺望できます。丘を下り、幼年ゴリラを養育中の場合は、
幼年ゴリラに会える場所に行きます。もう一つの入り口から入ると、
ポリオで障害のある老年ゴリラが中州に住んでいる川辺で、食事をあげる
のを見ることができます。彼は意地悪で、私が行ったときは砂を投げて
きました!当時いた仲間のゴリラはポリオで亡くなり、彼だけ助かった
のだそうです。そこからボートに乗り、ルナ川をクルーズして森の中に
入っていくと、川沿いにゴリラが現れたり、川の中にカバの群れがいたり、
かなりの確率で皆会えているようです。
幼年ゴリラは、川の対岸から見られます、向こうもこちらを見ていますね
カバは陸上ではなくこうやって川の中にいるところに会います。ボート
をひっくり返されることがあるので、急いで通過します
この保護区はイギリスのアスピナール財団と協力していて、イギリスの
動物園で繁殖されたゴリラを野生に返す受け入れ先になっています。が、
ゴリラを移動させるのはたいへんなことですから、頻繁に行われている
わけではありません。
https://www.aspinallfoundation.org/the-aspinall-foundation/working-around-the-world/congo-and-gabon/joshis-new-life-in-congo/
ここを訪れるには保護区の事務局に事前に予約を入れます(assistantppg
@ppgcongo.org)。入場料やボート代などは比較的高く、コンゴ人
には敷居が高いのですが、前述のように日本から高いお金をかけてゴリラ
を見に来る人たちがいることを思えば安くゴリラに会える、と在住の
外国人たちに特に人気があります。早朝に首都を出て、日帰りも可能
ですし、簡素なロッジに宿泊することもできます。
3.コンクアチ・ドゥリ国立公園 Parc national de Conkouati-Douli
コンゴの西には約170kmだけ、大西洋に面した海岸があります。南方の
ポワント・ノワールという町には世界各地からの貨物船が着く大きな商港
があり、ブラザビルが行政の首都であるのに対して、ポワント・ノワール
は商業の首都と言われています。そこから北へ、隣国ガボンとの国境へ
向かって行ったところに、この国立公園はあります。
ここの目玉は、チンパンジーのサンクチュアリです。ヘルプ・コンゴと
いうNGOが、食肉目当ての取引で押収されたチンパンジーたちを野生の
環境に戻す活動を30年に渡って行っています。公園の中を流れる川の
中州をチンパンジーだけが暮らす島にしていて、観光客はボートで
近寄ってチンパンジーに会います。その他の陸上動物、マルミミゾウ、
森林バッファローなどももちろんいます。
ヘルプ・コンゴのウェブサイトhttps://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/w8v7dq27lze4/imdvi6zs/
また、海に面しているため、ウミガメの産卵場所もあり、このNGOは
ウミガメ保護の普及教育なども行っています。近海にはクジラ、イルカ
もいます。そして河口にマングローブもあります。
公園の管理は長年WCS(Wildlife Conservation Society)という
アメリカ本部のNGOが行っていましたが、私が訪ねたときはちょうど
契約が切れて、コンゴ政府独自の管理になっていたときで、前述の
ゴリラ保護区同様、非常に質素な宿泊施設で自炊しました。現在は
フランス本部の「ノエ(Noé)」というNGOが管理しています。
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/h4w8wzr5graj/imdvi6zs/
4.ヌアバレ・ンドキ国立公園 Parc national de Nouabale Ndoki
こちらは1.のオザラ・コクア・ロッシ国立公園よりもさらに北、カメルーン
国境の近くにあり、草原もあるオザラと比べ、ともかく熱帯林ジャングル
だらけの秘境です。首都からは国内線の飛行機で835km北のウェッソと
いう町へ飛び、そこからさらに陸路を北上します。ニシローランドゴリラ、
チンパンジー、マルミミゾウなどが見られますが、長年の質素な宿泊施設
に食料持参という状態から、現在オザラと同じ会社が観光設備を整えて
いるところで、2025年からツーリストの受け入れを始めるとのことです。
公園を管理するWCSのウェブサイト
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/yzv1fyp6s6py/imdvi6zs/
私がオザラ北部で調査中の確か2007年に、日本からのツアーのお客さん
が公園から町に戻ってこられたところを、ホテルに会いに行きました。
森の中を結構歩かなければならず、高齢の方はたいへんだったようです。
また、食料持参のため野菜や果物が食べられなかったということで、
アボカドやトマトをほおばっておられました。遠い日本からはるばる
来られると、現地の料理も楽しんでみたいところですから、缶詰やスパゲティ
などの食事では確かにつまらないですね。その意味でも、料金が高くなって
しまっても施設や待遇を改善するのは大事なことだと思いました。
以上、動物をメインとした観光地をご紹介しましたが、お分かりのように、
必ず外国資本に入ってもらわなければ、外国人観光客を受け入れるレベル
の場所にできないのが問題です。コンゴ政府はツーリズムの発展を促進
していますが、観光産業として民間に開発してもらいたいので、投資して
くれるパートナー頼りなのです。アクセス道路、宿泊施設、移動手段など
のインフラからすべて整えなければならないというのは大規模な投資です。
コンゴ人も首都近郊では、コンゴ人の週末のレジャーとなる小規模な観光地
を川沿いに整備していますが、わざわざ外国から来てもらう「見もの」が
あるわけではありません。
さて、動物以外にも、コンゴに来てもらう動機になるものがあります。
5.コンゴ川のタイガーフィッシュ
コンゴ共和国と向かいのコンゴ民主共和国の国境となっているコンゴ川は、
南米のアマゾン川に次ぐ世界第二位の流域ですが、国際的注目度がとても
低いです。それでも唯一、スポーツ・フィッシングで注目を集めている魚
がいます。タイガーフィッシュ、現地ではンベンガと呼ばれる魚です。
コンゴ川の生態系の頂点にいて、非常に大きく鋭い歯を持っているため、
体長1.5メートル、体重50キロにもなる大きな個体もいます。大きな
ンベンガを釣ろうと思うと、それに見合ったギアを持っていなければ
ならないので、現地の零細漁師たちが食用に釣れるのは小さいものだけなのです。
もう10年以上前に、アメリカ人で有名な釣り人がテレビ取材に来て釣った
様子が日本のテレビでも紹介され、釣り人にとって憧れの魚となりました。
そのアメリカ人はその場でリリースしていましたが、このキャッチ・アンド
・リリースも魚にダメージを与えてしまっては意味が無く、ダメージを
与えないで済ませるには技術が要るようです。また、スポーツフィッシング
で来る人たちの中には頭を乾燥させて持ち帰りたい、そして同行する現地の
人たちは食用にしたいため、リリースされないこともあります。現在は
マイナーな観光資源なため、タイガーフィッシュの釣りには何の規制も
ありませんが、将来生態系に影響を与えないように、政府が対策を取った
うえでの観光資源になることを願っています。
6.サプール
第9回のリサイクルの回で少しご紹介したサプール(おしゃれでエレガント
な紳士たち)は、2014年にNHK「地球イチバン」というドキュメンタリー
で取り上げられて以来、日本でも写真集が出版されたりして、有名になり
ました。そしてわざわざ日本からサプールに会いに来る人がいるほどに
なっています。在京コンゴ大使館を通したりして私に連絡がついた人には
サプールを紹介しましたし、自力でやってきてなんとかサプールに会うこと
ができた人もいます(のちにSNSやブログで私も知りました)。
このサプールは、太鼓やダンス、アフリカの布など他のアフリカ諸国にも
あるものと違って、コンゴ唯一の文化として誇れるものだと私も思って
います。日本人のみでなく今や欧米人にも知名度のあがったサプールなの
ですが、サプールの恰好をする人たちが多い夏休みのシーズンと、
そうでない季節があるのが難しいところです。行けば必ず会えるような、
サプールが交替で常駐して独特のステップを披露するバーを作ればいいのに、
と思いますが、コンゴ人同士では必ずもめごとが起きて継続できないせいか、
誰も始めないのが惜しいところです。
7.コンゴのグランドキャニオン「ディオッソ峡谷(Gorges de Diosso)」
最後に、こちらはコンゴに来られた際についでに見ていただきたいという
程度のものですが、行くと結構びっくりされると思います。3.のコンクアチ
国立公園へ行く方面、ポワント・ノワールから25キロの海沿いに、天然の
地滑りした大地が広がっています。上から見るだけでも迫力がありますが、
現地の若者が、渓谷を下って森を通り抜けて海岸に出るガイドをしています。
コンゴとの往復だけで4日*かかってしまうため、忙しい日本人のみなさん
にとってはとても遠くて行くのが難しい国ですが、もしご興味がありまし
たら情報提供いたしますので、お問合せください。
(*フランス・パリ経由、またはエチオピア・アジスアベバ経由)
萩原幹子
プロフィール
日本で会社員をしながら野生生物保全論研究会(JWCS)など
複数のNGOのボランティアを経て退職後、
2002年イギリスのケント大学で保全生物学修士取得。
2004年から3年半、中部アフリカのコンゴ共和国オザラ国立公園で、
マルミミゾウの畑荒らし問題の調査にたずさわり、そのままコンゴ共和国在住。
現在はフリーランス・コーディネーター、JWCSのプロジェクトスタッフ。
2021年から再びオザラ国立公園でマルミミゾウの畑荒らし問題に関するプロジェクトを実施中。
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