【ちきゅう部だより】第13回 コンゴのジェンダー問題 -国際女性デーにちなんで-

こんにちは
どうぶつ基金事務局です。

本日は「ちきゅう部だより」コンゴからのシリーズ・第13弾をお届けします!
長年コンゴ共和国に住んでゾウと人間の共存問題に取り組まれている
萩原幹子さんから届くお話。

今回はコンゴでのジェンダー、女性の立場についてのお話です。

国際女性デーのこと、全く知らないと思っていましたが、
ミモザの日とされ、最近は春先にミモザをよく見かけたり取り上げられたり
していることを思い出しました。
異なる文化や慣習は世界中のあちらこちらに存在しており、
改めて日本ではどうだろう?と考えるきっかけにもなります。
これを機に国際女性デーを知り、認識を深めてみてはいかがでしょうか。
ぜひご一読ください。

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第13回 コンゴのジェンダー問題 -国際女性デーにちなんで-

3月8日は「国際女性デー」です。国際女性デーは、女性の社会参加や地位向上を訴える日として、1975年に国連で提出され、77年に国連総会で議決されたそうですが、私は2008年にコンゴの首都ブラザビルに出るまで、国際女性デー
のことを日本でも全く聞いたことがありませんでした。

ところがコンゴでは当時から、この女性デーには盛大なパレードが行われていました。アフリカの女性の地位について日本人が持つイメージは、やはり女性が虐げられているというものではないでしょうか?
今回は先月あった女性デーにちなんで、コンゴのジェンダー事情をご紹介します。

コンゴ政府には女性開発省があります。正式名はとても長く、「女性の発展、開発分野における女性の統合、およびインフォーマル経済省」といい、大臣は当然女性です。よく女性の社会進出度をはかる指標として、内閣の中の女性
の割合が語られますが、コンゴは35人中8人が女性大臣です。ちなみに日本は現在、17人の大臣のうち5人が女性です。

かつては3月8日の女性デーのパレードは毎年首都で行われて、各地方都市もそれぞれ独自に行っていましたが、現在の大臣就任からか、大臣自ら毎年異なる地方都市に大勢の女性たちとともに出向いて、地方を盛り上げるようになりました。パレードでは大統領夫人、大臣らの前を、女性グループや職場ごとに、女性デーのためにデザインされたおそろいのパーニュ(生地)の服を着て行進し、とても華やかです(冒頭の写真)。

大臣が語るのは主に女性の自立、社会進出のことですが、それよりも大臣が来て女性たちに職業のためのツール(ミシンや農具など)をプレゼントしただとか、パレードが大勢の女性で盛り上がったことが報道されています。

コンゴの女性開発大臣(Vox TVのニュースより)

また役所や企業ごとに、会社や上司がお金を出してパーティーを開くところもあります。そのように月給のある仕事をしている女性たちにとっては、女性デーは職場のお金でビールを飲むことができて楽しむ1日になっています。
一方、市場で売る女性たちや農家など、インフォーマルセクターの女性にとっては、誰かがご馳走してくれるなら飲むけど、自ら祝うようなお金の余裕は無いわ、という具合です。

この現象はコンゴ社会では、女性はみんなのお母さんだから、女性をたたえよう、喜ばせよう、という認識が第一にあるようです。同日に女性のエンパワーメント、起業など社会進出に関するセミナーが開かれることもありますが、後述します女性の権利に関する問題については語られることはありません。

実際見ていますと、中学・高校・大学には優秀な女子生徒たちは多いですし、大昔にあったかもしれない、女の子だから学業はどうでもいい、家事ができるようになればいい、といった風潮は全くありません。むしろ、女性も勉強を
がんばっていい仕事に就くか、勉強ができない場合は手に職をつけて、夫に頼らず自立できるようにならなければだめだ、というふうに教育する親は多いです。勉強に意欲のある女子は大学、大学院と進学して、富裕層の場合は留学
させてもらうことあります。ただし地方へ行くほど、学業についていけなくなって、10代で妊娠して出産する女子の率は非常に高くなっています。

また社会では、公務員や銀行員などには女性の管理職も多く、制度どおり産休もきちんと取れますし、結婚しても仕事を続けることに問題はなく、日本ほど男性中心社会ではない、という印象です。それよりも表立って言われる問題は、女性たち自身のやる気のほうです。勤めに出て昇進する一部の優秀な女性たちに対して、前述のように早々に出産して母親になり、家庭の主婦にとどまり、夫の稼ぎを待っているだけ、という女性たちもまだまだ多く、経済的自立を促すための政府の援助金が出ることもあります。
コンゴでは家の前でこまごました食料や日用品を売ったりと、手軽にミニ商売ができますので、元手となる資金を援助してそれで回していくこと、もっと商売を拡大していくことを指導するものです。それでも医療保険制度が無いせいで(第11回参照)、子どもや自身の病気の治療費で元手を食いつぶしてしまう女性も多いのが現状です。

ここで、表立って言われることのない問題を見ていきましょう。女性問題はその国、地方の文化の問題でもあります。コンゴでも昔からの慣習がまだまだ根強く残っています。その一つが、婚姻・未亡人の問題です。

コンゴの結婚は事実婚から始まることが多く、子どもを何人も生んでいるのに結婚していない夫婦も多く存在します。本来、男性側が女性側の親族に対してあなた方の娘をもらいます、と貢物とお金を持ってあいさつに行く
「伝統婚」という儀式をしなければなりません。が、それには男性側の経済的負担がとても大きいため、お金が貯まるのを待っていていつまでも事実婚のままというケースも多いです。ただ一度に済まさなくても、第一段階、第二段階と少しずつ進めることもできます。それをしておらず、妊娠や出産中に妊婦に何か事故が起きた場合、お前のことは知らない、と女性側の親族から多額の賠償を要求されるのですが、伝統婚をしていれば、双方の家族で問題を一緒に解決しよう、となります。

伝統婚で夫側から持ち込まれた大量のビール。参加者の前で次々と様々な品が贈呈されます
こちらは男性が堅実な軍人で、若くして結婚した私の友人の妹

コンゴではまずこの伝統婚ありきで、伝統婚をしていないと、役所で婚姻届けを出すことはできません。役所も婚姻届けを出すだけではなく、市長や区長が教会の神父のように仕切って指輪の交換をさせたり、婚姻届けに署名をさせるセレモニーを行います。その際に夫は、一夫一婦制か一夫多妻制かを選択し、記録されます。それと夫婦共同で財産管理をするか、別々かも選び、結婚証明に記載されます。

ある区役所の結婚式。同日に複数カップルが結婚する場合はこのように同時に行うこともあります


本来この結婚という手続きを経ていれば、万一夫が亡くなっても妻や子どもに遺産や遺品が残るはずなのですが、夫側の家族が非情なことが多いのです。家や家財を取り上げられてしまい、未亡人は着の身着のままで実家に戻るしかない、ということがあります。夫が亡くなったら、埋葬までの1週間から2週間つづく通夜のあいだは、他人と目を合わせてはいけない、ずっと部屋にこもっていなければいけない、という慣習もあります。そして喪が明けるまでは外出も経済活動もしてはいけない、それが種族によっては1か月半のところもあれば、半年間続くところもあります。
日本のように妻が喪主となることはなく、人前から引っ込んで、ともかくしきたりに従わねばならないのです。(逆に夫が妻を亡くした場合は、埋葬までの通夜が続く期間だけ閉じこもっていますが、埋葬が終われば普通の生活に戻ります。)

夫側の親族によっては、残された妻の面倒は見ないが子どもの学費などの面倒は見る、という場合もありますが、夫側の親族に経済力がない場合は妻も子も追い出され、子どもを女手一つや女性側の親族だけで育てた、という話もよくあります。

通夜の日々が終わり、埋葬の日に霊安所から棺に入って運ばれてきたご遺体。親族や知り合いの女性たちが激しく泣いてお別れします。未亡人は棺の脇に寄り添います

また婚姻の別問題は、女性側に離婚の自由があまりないことです。結婚こそ、他のアフリカ諸国のように親が相手を見つけてきて有無を言わせず結婚させられるような婚姻は今は無く、コンゴでは自由恋愛での結婚が主流なのですが、夫婦や家庭に問題があり妻がもう耐えられない、という状況になっても、男性側も女性側も親族が妻に、とどまれ、耐えろ、と説得するばかりです。女性側親族にとっていわゆる「出戻り」は良くない、「結婚は忍耐だ」という常識もあるためです。女性自身もときには、戻る実家が無かったり自立する力がないので仕方なくとどまることもあります。

私の友人であるコンゴ人の男性が西アフリカ人女性と国際結婚しましたが、妻は15歳ぐらい年下で当時まだ若く、何も発言権も決定権もない状態で、夫の浮気やお金を家に入れない状態に15年間耐え続けました。子どもが二人いて、周りから出ていくなと言われ続け、耐え続けて38歳になってしまいました。もっと早くあと二人ぐらい産みたかった、人生をやり直したい、と言います。「耐えろ」というのは他人事すぎる、と思いました。
それで彼女の、夏休みに友人の結婚式に出るから子どもたちを連れて母国に帰り、そのまま戻らないという計画に大賛成しました。夫が変わらないことはずっと前から見極めていても、いざ実行に移すには時間が必要だったのかもしれませんが、周囲のせいで余計に長引いてしまいました。

日本でも夫婦には似たような問題があるでしょうが、ここの問題は、女性が弱者となっているケースを社会も黙認していることにあります。コンゴ人自身も問題を認識していても、社会制度の中で女性を守るすべを考えるには至らないようです。しかもこれは文化の問題でもありますから、西洋の常識で「女性の権利を守るべきだ」と言うのも違うような気がします。コンゴ人の中にはたくましい女性たちもたくさんいるのを私も知っています。女性であるために辛い思いをしないためには、女性たち自身の考え方を変えるように持っていき、自立できることを周囲に示すのがよいのではないかと思っています。

コンゴでは伝統婚はしても、役所で籍を入れる結婚は限られるため、おもしろいことに、ある大都市の年間の離婚数を役所で調べると、なんと1年間で離婚はゼロ件でした。役所の結婚に至るまでに年数がかかって夫婦関係がもう安定していることが大きいですが、事実上夫婦は破綻していても、妻にとって法律上婚姻状態にあることが、前述のような問題(夫側の家族に何もかも持って行かれる)を避けるのに有利なため、夫が離婚を求めても承諾しない、という逆のケースもあります。

ところで、セクシャルハラスメントはあるでしょうか?
セクハラは無いけれど、パワハラはあると言っていいでしょう。コンゴ人は日常的に人の身なりを褒める習慣がありますから、男女を問わずきれいにしている女性を褒めるのですが、それも今や日本ではセクハラと言われてしまうのですね。
コンゴ人女性たちは服装やスタイルを褒められたら単純に喜び、笑って楽しく済ませます。私もそれが男女が存在する社会では普通なんじゃないかと感じています。ただ、女性が職場で昇進するためには上司と性関係を持たねばならない、といったパワハラはあり、特に軍隊の社会には多いと聞きます。そしてやはりこういう問題は、日本のタレントの世界ではないですが、表立って問題視されることは決してありません。

最後に、野生動物など自然資源の近くで暮らすコンゴ人にも関係する、「保全と女性」というテーマをご紹介します。

南米のアマゾン、アフリカや東南アジアの森林など、世界中のあちこちには、生物多様性を利用しながら自然と密接に暮らしている人々がいます。その中でも女性たちは日々の採集活動、野生動植物の取引などに重要な役割を担っています。それなのに、これら自然資源の保全、持続可能な利用についての研究、検討、意思決定の場において、ジェンダーが考慮されることもなければ、女性たちはあまりにも脇に置かれてきました。

そこで、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の締約国会議の場では2022年、ジェンダーに関する決議を採択しました。ジェンダーを意識した対策、女性や女児への知識の普及、会議の場への参加などを考慮すべきというものです。世界的に問題になっていることを全く知らずに自然を搾取続ける女性たちが、問題を知って持続可能な方法を検討することは大きな良い効果をもたらします。また、自然保護にからめて女性のエンパワーメントや家族計画による家計の負担減少などの普及教育を行っている国際NGOも存在します。

女性たちもごくラフな普段着で、キャッサバ芋を包む葉を取りに森に入ります
ハンターからブッシュミートを仕入れて小売りにするのも女性の仕事です

私がコンゴの国立公園の森で活動していても、保全活動に従事するのは多くが男性で、家庭の主婦たちは、ゾウの畑荒らしにただただ腹を立てていて、ゾウの生態系における重要性は意識していなかったり、絶滅危惧種の動物でも食べたいという発言をすることもあります。が、家庭の母親が子どもたちへの影響を一番持っているので、子どもの教育上も、女性たちの保全意識の向上は大切です。私の行っているオザラ・コクア・ロッシ国立公園では何年も前から、エコガードと呼ぶレンジャーに女性も採用し始め、男性同様に活躍しています。

モニタリング調査で活躍する女性も
(写真:アフリカン・パークス Scott Ramsay)

 日本は女性の社会進出や地位向上が国際レベルでは非常に遅れていますが、コンゴの場合は総じてみると、やる気さえあれば差別されることのない社会です。その意味では日本より進んでいるのかもしれません。



萩原幹子
プロフィール
日本で会社員をしながら野生生物保全論研究会(JWCS)など複数のNGOのボランティアを経て退職後、2002年イギリスのケント大学で保全生物学修士取得。

2004年から3年半、中部アフリカのコンゴ共和国オザラ国立公園で、マルミミゾウの畑荒らし問題の調査にたずさわり、そのままコンゴ共和国在住。現在はフリーランス・コーディネーター、JWCSのプロジェクトスタッフ。
2021年から再びオザラ国立公園でマルミミゾウの畑荒らし問題に関するプロジェクトを実施中。




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知ることは、アクションの始まりです❣

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