【ちきゅう部だより】第16回 コンゴでの養蜂教室と世界のミツバチ事情

こんにちはどうぶつ基金事務局です。
本日は「ちきゅう部だより」コンゴからのシリーズ・第16弾をお届けします!

長年コンゴ共和国に住んでゾウと人間の共存問題に取り組まれている
萩原幹子さんから届くお話。

コンゴからのシリーズも残すところあと2回となりました。

今回はコンゴで取り組まれている養蜂のお話です。

これまで漁業や農業・畜産業といったコンゴにおける産業について
萩原さんからの詳細なレポートで知るとともに、
世界で起きている問題についても同時に学ぶことができました。

ゴンゴでの「養蜂」はミツバチを飼育して蜂蜜を採るだけではなく、
自然環境を守ることにもつながっていました。

今日もスプーン1杯の蜂蜜をありがたくいただこうと思います。
ぜひご一読ください。

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第16回 コンゴでの養蜂教室と世界のミツバチ事情

前回はコンゴの食糧問題に絡む農畜産業について書きましたが、今回は畜産業の一部に位置づけられる養蜂とミツバチの問題について書かせていただきます。

私は蜂蜜をいつも買って常備するほどの蜂蜜好きではありませんが、コンゴに来て以来、コンゴで採れた蜂蜜には興味がありました。それはお酒のリサイクル瓶などに入れられて、市場や個人宅の軒先で売られています。
日用品に比べると割と高い買い物になるため、もらいものか、小瓶で買うことぐらいしかありませんでしたが、とても黒くてサラサラ気味の蜂蜜の中に時にはミツバチが入っていることがあり、最初はびっくりしました。

近年はこのようにパッケージをきちんとしたコンゴ製の蜂蜜がスーパーに並ぶようになりました。

そもそも日本で行われている養蜂についても全く知識がなかったところ、2003年から最初に滞在したンボモという村で、本職の国立公園職員のかたわら養蜂をやっている人と知り合い、採蜜の現場を訪ねたことがあり、強く印象に
残っていました。そこで20年近く経った今、縁があって、助成金を得て2023年からンボモ村でその彼と一緒に養蜂家を育てる養蜂教室をしています。

昨年7月の本メルマガ第4回で、国立公園とコミュニティについて書いた際に少し触れましたが、ンボモ村ではマルミミゾウの畑荒らしがひどくなって農業で生計を立てるのが難しくなっていたため、別の収入源になる活動が必要とされていました。そこでJWCS(認定NPO法人 野生生物保全論研究会)では、若者たちが手に職をつけることで村を活性化して、野生生物と共存していける村づくりを目指すプロジェクトを行うことにしました。

ところが実際には村に残っている若者たちは、小・中学校を続けることができず、職業訓練を受ける意欲もなく、日銭を稼げる単発の仕事(国立公園が雇う肉体労働の仕事など)や、若い女性たちはプチ商売(お酒や古着の販売)をすることを好んでいて、農業で新たな作物に挑戦するなど、若者たちをプロジェクトに取り込むことは難しいとわかりました。

いっぽう、2004年に養蜂の規模を拡大する夢を語っていた、ンボモで養蜂をやっていた前述の人には、国立公園の別の地域に転勤になってからンボモで巣箱をケアする人がおらず、実質一箱しかハチの入った巣箱が残っていない状況でした。それで、このままンボモで養蜂ができる人がいなくなってしまうのはよくない、彼から村人たちに養蜂を教えてもらえないかと話をもちかけたところ、快諾してくれました。彼は国立公園の同僚たちと1993年に養蜂を学んだのですが、唯一養蜂を継続していて、話していると、養蜂の仕事をとても愛していることが伝わってくる人です。

講師がまだ若かったときは巣箱が複数あり、蜂蜜の採取に立ち会いました。森の中の養蜂です。

まずは「養蜂の重要性」と題して村人たちを対象にセミナーを開いたところ38名集まり、若者から年配まで、みな非常に関心が高いことがわかりました。
そして受講生を10名ぐらいにして、継続できる人が数人残ればいいかな、と想定していたところ、20名は受け入れてほしい、とセミナーに参加したンボモ郡知事自ら要請されました。もともと若者を対象にしたプロジェクトでしたが、家庭で子どもたちに伝達してもらうことも可能なので、大人たちも受け入れることにしました。

セミナーでは自身のハチについての体験に基づき質問する人もたくさんいました。

ンボモの人たちにとって、ミツバチは非常に身近な存在です。森の豊かな自然と、その中に開墾される畑では、枯れ木や倒木の空洞に野生のミツバチが巣を作っています。そして野生の花や、キャッサバの花を渡り歩くミツバチをよく目にします。ハチの巣を見つけた村人たちは、まず怖がって近寄りません。
そして村に住んでいるピグミー族と呼ばれる狩猟採集民(農耕民に対して)の人たちを呼んで、蜂蜜を採取してもらいます。彼らは森の中でもハチの巣を見つけるのに長けています。そしてハチを恐れることなく、蜂蜜を採って家族や仲間で分け合って蜜だけでなく巣(ケーキと呼んでいる)ごと食べます。
蜂蜜はピグミー族の重要な食べ物だ、だから彼らはしょっちゅう病気にならず元気だ、とまで言われています。
(このピグミー族については次回に詳しくご紹介します)

ところが、実はこのような蜂蜜の採取には問題があります。枯れ木の上のほうにハチの巣がある場合は、彼らはその木を切り倒してしまいます。彼らは蜂蜜が作られているかどうかを季節から知ることができ、蜂蜜ができている巣を狙うのですが、巣をすべて取り出してしまうため、追い出されたハチたちは転居先を探さねばなりません。またピグミー族をまねて一般の村人も蜂蜜を採ろうとして、蜂蜜が無かった、と徒労に終わるだけでなく、巣を取り出して無駄にダメにしてしまうこともあります。

このように巣を取り出してから蜂蜜が無いとわかると、ハチの巣も無駄に

私も養蜂教室に携わってから受講生と一緒にハチのことも学んでいるのですが、働きバチがせっせと働いて六角形ののあいた巣を作るわけで、人間が邪魔をしなければ、その同じ巣でずっと繰り返し産卵したり、蜜を貯めたり、その蜜を食べてまた蜜を作ったりできているところ、人間のせいで突然彼らの生活が壊れてしまうのです。もちろん枯れ木が自然に倒れてしまうこともありますが、巣は残ります。
いっぽう養蜂の場合は、巣箱の中の枠にたくさん巣が作られて群れが安定したら、上に別の巣箱を重ねて、下の巣箱はずっとハチに住んでもらい、上の段にできた蜂蜜だけ採ります。
人間はミツバチから蜜をもらいながら共存している関係です。ですので破壊的な採蜜が行われているところで養蜂を促進していくことは、環境に配慮した活動でもあるのです。

ところで日本や欧米で行われている養蜂はセイヨウミツバチが主で、まさに家畜のように巣箱に入った状態で売られているものを買って始めることが可能で、巣箱の中に入るとそこから転居して行くこともなく、せっせと蜜を作ってくれるそうです。市販されている蜂蜜もほとんどがこのセイヨウミツバチのものです。が、日本には日本固有の二ホンミツバチが野生に生息していて、この二ホンミツバチを野生から取り込む養蜂も行われています。
特にこれは最近趣味として個人で始める人が増えるほど人気になっています。セイヨウミツバチの場合は蜜源となる植物の畑も用意する(なのでレンゲの蜂蜜とか、蜜源が特定されているものがあるのです)のと違い、二ホンミツバチは様々な花から花蜜や花粉を運んでくるので、その蜂蜜は「百花蜜」と呼ばれています。
コンゴのアフリカミツバチも、二ホンミツバチ同様、野生から取り込んで行います。
それが実は、簡単ではありませんでした。

野生群を取り込むには、ミツバチがよく来そうな場所(花粉を採る植物の近くなど)に「待ち箱」を設置する方法、女王バチを捕まえて巣箱に入れると働きバチもついてくるのでそのまま居ついてもらう方法があります。
「待ち箱」の方法は、前述のように巣が壊れたり、今の巣でハチが増えて手狭になって引っ越し先を探していたり、分蜂といって新たに女王バチが生まれて女王バチ以下群れの一部や大部分が群れから独立するため引っ越し先を探しているときに、入ってもらえる可能性があります。
ただ、森にはミツバチが巣を作ることのできる場所がたくさんあるので、教室の先生いわく「人間が作った巣箱を気に入ってくれるかどうかはハチ次第」なのだそうです。誘引になる香りをつけているので、いったん入ってみるけれども、やっぱり気に入らない、と出て行ってしまうこともあります。

待ち箱を設置する講師と受講生たち

後者の女王バチを捕まえる方法は、養蜂教室で実践してみてたいへんでした。
ミツバチの群れに燻煙器で煙をかけてハチを逃がしながら、群れの中に手を入れてミツバチをかき分け、女王バチを探すのです(冒頭の写真)。
みなで手分けして探してもなかなか見つかりません。これは教室では女王バチを区別する学習として行われましたが、やっと発見して巣箱に入れた女王バチとその群れは、巣箱に定着せず出て行ってしまいました。このやり方の成功率は2~3割だそうです。確かに「ケージ」に閉じ込められた女王バチは、その素材をかじったりすることで脱出できるようになっているのですが、そうやって苦痛を与えられた場所には居つきたくないだろうな、と感じました。この実践では、女王バチが移動するほうへ働きバチもみなついていき、常に護衛されているのを見ることができました。
また、女王バチを見つけるのが失敗に終わったケースでは、探しているあいだに邪魔されて危険を感じた女王バチが、ピーっと合図を発して、群れで一気に空中に飛び立っていきました。私はこの声を聞き逃してしまったのですが、「行くぞ!!」という指示だったのですね。ミツバチを怖がっていた受講生たちが、女王バチを探すのに手袋無しで群れの中に手を入れられるほどになったことも、驚きでした。攻撃的動きをしなければ刺されないことを学びました。

分蜂中のミツバチの群れから女王バチを探していますが、なかなか簡単ではありません

この養蜂教室では「待ち箱」3箱にハチの群れが安定して、蜂場として設定した場所に巣箱を集めました。うちひとつには上に乗せた箱に蜂蜜が作られ始めているのが、5月に確認されました。教室の座学で初日に来た23人から、脱退してしまった人、新たに加わった人もいて、合計15人が第一段階の研修を終え、継続していくことになっています。蜂蜜の採取まで、養蜂の全段階を一通り学んで、国立公園に来る観光客に蜂蜜を販売できるようになることを目指しています。
ちなみに受講生の年齢は10代から70代と幅広く、男性11名、女性4名、職業も小学校教師、幼稚園園長、幼稚園警備員、商店経営、ツーリズム会社スタッフ、コミュニティ長、村の賢人、農家、主婦などさまざまです。

第一段階の修了証をもらった受講生たちと先生

またこの教室の受講生の発案で、先生と受講生たちで団体をつくることになりました。日本からの助成金に限らず、コンゴでも国際機関や政府からの援助を受けられる体制を作っておくためです。野生群を取り込むには、待ち箱をたくさん追加で設置できれば効率が良いですし、採蜜のための道具類や加工場の設備を整えて、活動を発展させていきたいという意欲が皆にあり、喜ばしいことでした。団体の名前は、「コンサベーション(保全)のためのンボモのミツバチの友」になりました。


「コンサベーションのためのンボモのミツバチの友」が蜂蜜を収穫できたらこのラベルを貼ろうと、村の子どもたちの絵画をデザインしたもの


ところでタイトルに世界のミツバチ事情と書きましたが、2006年にアメリカで原因不明のミツバチ群の崩壊現象が起こり、それを発端に世界規模でのミツバチの減少問題が、大きく取り上げられるようになりました。それを機に、ミツバチをはじめチョウなどの昆虫、鳥などが「花粉媒介者」となって、農作物の栽培や生物多様性の維持にとても重要な役割を果たしていることがあらためて見直されています。ミツバチが絶滅したら人類も絶滅する、と誇張されていることもありますが、世界の科学者たちは得られる限りの情報を分析しています。風によって花粉が飛んで受粉される植物もありますから、すべての植物が育たなくなるわけではありません。
また、世界全体では過去50年間で、養蜂活動によってハチの群れの数は増加しているのですが、北アメリカとヨーロッパでは減少しました。世界中でハチが減少したわけではありません。減少の原因についても、気候変動、農薬、害虫や経済的要因など、複数あります。ですがこのようにデータがあるのは養蜂活動を通して群れの数がわかるからであって、アフリカの他の地域を含めて、コンゴのように野生のミツバチで養蜂を行っているところでは、ハチに関する基本データも無い状態です。コンゴでも全国各地で小規模な養蜂が行われてはいますが、登録制度もなく、ハチが増えているのか減っているのか、知るすべがないのです。

農業で非常に有効とされてきたネオニコチノイドという農薬がハチに悪影響を与えているとして、ヨーロッパでは規制が始まっています。西アフリカのベナン共和国では、コットンの栽培が盛んで農薬が使われているのですが、国立公園周辺で行っている養蜂による蜂蜜は農薬の影響を受けていない、と対ヨーロッパに高価で販売できているそうです。
人間のエゴを優先せずに、ハチ、自然環境すべてに配慮した、調和のとれた養蜂が全世界で行われていくことを願います。また、一匹のミツバチがその生涯に集める蜜は、小さなスプーン1杯ほどだそうです。
スーパーに並んでいると工業製品と同じように見てしまいがちですが、蜂蜜はミツバチがせっせと働いて作ったものだと意識すると無駄にできない、という気持ちになります。

 
参考資料

食文化誌ヴェスタ第134号「ミツバチとハチミツの食文化」
(2024年5月 味の素食の文化センター発行)

「養蜂大全」(2019)松本文男著、誠文堂新光社 pp207

芳山三喜雄(2011)「世界におけるミツバチ減少の現状と欧米における要因」ミツバチ科学28巻2号p. 65-72  https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030831164.pdf

UNEP (2010) UNEP Emerging Issues: Global Honey Bee Colony Disorder and Other Threats to Insect Pollinators https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/w0busyi5b8e5/5rmz71jl/

萩原幹子
プロフィール
日本で会社員をしながら野生生物保全論研究会(JWCS)など
複数のNGOのボランティアを経て退職後、
2002年イギリスのケント大学で保全生物学修士取得。
2004年から3年半、中部アフリカのコンゴ共和国オザラ国立公園で、
マルミミゾウの畑荒らし問題の調査にたずさわり、そのままコンゴ共和国在住。
現在はフリーランス・コーディネーター、JWCSのプロジェクトスタッフ。
2021年から再びオザラ国立公園でマルミミゾウの畑荒らし問題に関するプロジェクトを実施中。

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