【さくらねこ便り】地域猫活動発展の経緯と「地域の合意」について

こんにちは
どうぶつ基金理事長の佐上邦久です。

どうぶつ基金が連名しているchange.org署名「大阪市の街ねこ事業(地域猫活動)の条件である自治会長の「合意書への署名」というハードルをなくしてください」という署名に、元・練馬区保健所職員で地域猫活動アドバイザーの石森信雄さんが署名の賛同と理由を寄稿してくださいました。

石森さんは飼い主のいない猫に関する地域のトラブル解決のために練馬区地域猫推進ボランティア制度を立ち上げた方です。練馬区だけでなく、現在も全国で地域猫の普及のために講演や指導を行っています。その中で、石森さんは地域猫活動の普及において最大のネックはやはり「自治会長の合意」と感じており、今回の文を書いていただきました。

石森さんは日々全国で実践活動に関わっているだけあって、非常に説得力のある内容です。
ぜひご一読ください。

以下、石森信雄氏のお考えをご紹介させていただきます。

地域猫活動発展の経緯と「地域の合意」について

地域住民が野良猫に去勢不妊手術を施し、適正管理をしながら共生を図っていくという地域活動は、1990年頃にはいくつかの地域で自然発生的に行われていたと思われます。
こうした地域での取組に着目し、行政が施策としてはじめて積極的に取り組んだのが、平成9年(1997年)に横浜市磯子区で開始された「磯子区ホームレス猫防止対策事業」です。
この施策では、行政担当者が地域の会合に通い、様々な住民意見が飛び交う中で腰を据えてコーディネートを行い、最終的に皆の合意の下で対策を行うという手法を取っていました。野良猫対策を、町会・自治会等の正式な活動と位置付けて行いますので、活動は地域の中で自走していきます。まさに理想的な地域活動と言えます。磯子区では、この施策の対象となった野良猫を「地域猫」と名付けました。

極めて画期的なこの施策は、当時、全国的に評判となり、多くの自治体、動物愛護ボランティアに影響を与えました。これに伴い、「地域猫」という言葉も全国に広まっていったのです。
各地で同様の取組が広まっていく中で、地域の事前合意を前提とすると、たった一人でも強硬な反対者がいると対策が開始できないことから、事前合意にはこだわらずに、町会・自治会の役員等から活動することの了解を得た上で、対象地域の住民に徹底周知し、さらに戸別訪問によって対面でも丁寧に話をして、皆の理解を得つつ、対策をしながら地域の協力者を増やしていくという、より現実的な手法も登場しました。
また、地域外からやってきた動物愛護ボランティアが地域住民と協働することなく去勢不妊手術を進め、これを「地域猫活動」と称する事例も現れました。さらには、去勢不妊手術もしていない(その予定もない)単なる野良猫を「地域猫」と呼ぶ人まで現れ、「地域猫」という言葉の使われ方がかなり混乱しました。

磯子区の施策開始から13年が経った平成22年(2010年)、環境省が「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」を公表、この中で地域猫活動が紹介されました。これは、国の文書に地域猫活動がはじめて記載された、大きな出来事でした。
しかし、ガイドラインの地域猫活動に関する記述に『地域の合意』という項があり、「自治会としての合意は重要」「意思の統一を確認した上で活動を始める」と記載されていたことから、懸念も生じました。
地域猫活動は、「地域住民が主体となって行う野良猫対策」であることを基本コンセプトとしつつも、その具体的な手法は比較的柔軟に発展してきました。
前述のように、当時すでに、事前合意にはこだわらずに、地域住民の有志が丁寧な戸別訪問等を行って、隣近所の協力を得ながら、野良猫トラブルを円満に解決している事例が多くありました。
そういった事例に関わっている人たちからすると、「町会・自治会等の合意が無くても、地域ぐるみの野良猫対策は出来る。」という思いがありました。
また、「町会・自治会等の合意までをコーディネートできる人物がウチの街にはいない。」「話し合いを続けている間にも野良猫は出産を繰り返してしまう。」そんな声もありました。

ガイドラインの記載に対する様々な反応がある中で、平成25年(2013年)、「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」という2つの環境省告示が発出されました。
これは、前年の「動物の愛護及び管理に関する法律」の改正を受けて、法の趣旨を実現するための具体的な方法について記載したものです。告示は、単なる文書ではなく、国家行政組織法に根拠を持っており、国の考えを明示するものです。前者(指針)は都道府県をはじめとする自治体に宛てた告示、後者(基準)は広く国民に宛てた告示です。
この中で、地域猫活動について記載されています(ここでは「地域猫対策」と表現されています。)。地域猫活動はついに国の告示に明記される対策となりました。
告示において、地域猫活動は以下のように記されています。

「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」(平成25年改正版)
住宅密集地等において飼い主のいない猫に不妊去勢手術を施して地域住民の十分な理解の下に管理する地域猫対策について、地域の実情を踏まえた計画づくり等への支援を含め、飼い主のいない猫を生み出さないための取組を推進し、猫の引取り数削減の推進を図ること。

「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」(平成25年改正版)
飼い主のいない猫を管理する場合には、不妊去勢手術を施して、周辺地域の住民の十分な理解の下に、給餌及び給水、排せつ物の適正な処理等を行う地域猫対策など、周辺の生活環境及び引取り数の削減に配慮した管理を実施するよう努めること。

どちらの告示にも、「合意」という文言はありません。代わりに「地域住民の十分な理解の下に」「周辺地域の住民の十分な理解の下に」という表現となっています。
ガイドラインの公表から3年を経過していることから、告示においては、ガイドラインに対する市民の様々な反応を踏まえた内容になっているものと思われます。
なお、「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」は令和2年(2020年)にも改正されており、地域猫活動に関する記述も変わっていますが、「地域住民の十分な理解の下に」という文言に変更はありません。
あくまで私見ですが、特に法的根拠を持たない文書である「ガイドライン」と比べ、告示は、より責任を持った形で国の考えを示しているように思われます。環境省のホームページにおいても、ガイドラインが「パンフレット・報告書等」のページに掲載されているのに対し、上記2つの告示は「法令・基準等」のページに掲載されています。告示は、5年ごとの法改正にあわせて、見直しの検討も行われていることから、適宜アップデートされているものでもあります。

前述のように、地域猫活動は、地域住民による野良猫対策という本質は維持しながらも、比較的柔軟に発展してきました。この柔軟さは、地域猫活動が常に現場の苦境に立脚したリアルな対策であり、理論より現実を優先してきた結果だと言えます。目の前に繁殖を繰り返す野良猫がおり、目の前に困り果てている地域住民がいる。そのような状況の中でノウハウが積み上げられ、必要な変化も生じてきたのです。
そして、この変化に呼応するように、環境省から発出される文書の表現も変化してきたのだと思います。

こうやって整理してみると、「町会・自治会の合意が必要か否か」はすでに論点ではないような気がします。町会・自治会単位の活動であってもいいし、地元の普通の住民が隣近所に声をかけて行う活動であってもいい。前者ならば事前合意は必要でしょうし、後者ならば町会・自治会にきちんと説明すれば十分でしょう(地域活動ですから、町会・自治会への説明は必須だと思います。)。どちらにするのか、それは個々の地域事情にあわせて柔軟に考えていくべきでしょう。

では、「地域猫活動では、町会・自治会の合意は必ずしも必須ではない」としたときに、「地域猫活動は、誰がどんなやり方をしてもOK」なのでしょうか。地域猫活動は、他の野良猫対策と何が違うのでしょうか?
前述のように、環境省告示には「地域住民の十分な理解の下に」「周辺地域の住民の十分な理解の下に」と記されています。これは、地域住民の十分な理解を得て行う野良猫対策、という意味だと思うのですが、私個人としては、それだけでは不十分だと考えています。
地域猫活動は、そもそもの発祥である磯子区の施策の魂を受け継ぐ活動であるべきです。そうだとするならば、「地域住民が協力し合って行う、地域の困りごと解決のための野良猫対策」が、地域猫活動と呼ばれるための要件なのではないでしょうか。

今も多くの地域で野良猫を巡って深刻な地域トラブルが生じています。
町会・自治会の合意が必要か否か、といった議論はそろそろ終わりにして、少しでも多くの地域が平和になるよう、地域猫活動を広めていかねばならないと考えています。
地域猫活動は動物愛護活動ではありません。地域住民が協力し合って自分の地域をよくするために行う地域活動です。地域での取組を支えていくため、ボランティア団体等が対策のノウハウを地域住民に伝授し、そして、行政は全体のプロデューサーとして、円滑かつ迅速に必要な対策を始められるような仕組みを整えます。こうして、関係者が協働して、よりよいまちづくりをしていくのが、地域猫活動なのです。

一一一一一石森信雄    元・練馬区保健所職員。飼い主のいない猫をめぐる地域トラブル解決のため、練馬区地域猫推進ボランティア制度の立ち上げを行った。
制度開始後、練馬区では動物愛護相談センターに持ち込まれる猫の数が減少し、また、猫をめぐる苦情数も減少し続けている。

現在は担当者ではないが、ライフワークとして、地域コミュニティにおける人と猫との共生のあり方や、行政とボランティアの協働のあり方について、各地で講演や研修を行うとともにWEBサイトでも普及啓発をしている。
自称「普及啓発ボランティア」。

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住民全体の利益に資する環境改善活動である「地域猫活動」を拡充するために、
広く全国の皆様からの署名をお願い申し上げます。

1つ1つの声は小さくとも、たくさん集まれば大きな声になります。
ぜひとも、全国の皆様のお力をお貸しください。
署名活動サイトはこちら
https://www.change.org/osakasakuraneko

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