44_埼玉県川越市多頭飼育救済支援レポート(行政枠)
申請No.44
申請日:2023年9月21日
申請/実施責任者:川越市保健所 食品・環境衛生課
場所:埼玉県川越市
居住者:当事者本人(53歳、男、アルバイト)、配偶者(42歳、女、パート)
居住環境:持ち家/一戸建て
生活保護の受給状況:受給していない
多頭飼育現場の猫の総数:57頭(66頭で申請するも実数は58頭。支援後に1頭が亡くなった)
手術日:10月5日、6日、19日、11月9日、30日
協力病院:堀どうぶつ病院
チケット発行数:60枚(申請時の総数66頭のうち手術済み6頭を除く60頭で申請)
手術頭数:50頭(1頭は手術前に病気により亡くなり、1頭は健康状態が悪く手術不可。頭数誤りで8枚が不要となる)
協働ボランティア:個人ボランティア
申請から不妊手術完了までの経緯(行政報告書より)
- 2004年に2頭のオス(不妊手術済み)と1頭のメスの捨て猫を保護したのがきっかけ。その後、知り合いから不妊手術済みのオス猫1頭を譲り受け、4頭を飼養していた。
- 2010年に、知り合いからメス猫1頭を譲り受け、2011年にオス1頭の捨て猫を保護した。この時期に以前から飼養していた猫1頭が病気で亡くなってしまい、子猫が欲しいと思い、2012年に1度出産させた。ところが、最初の出産から3ヵ月で同じ猫が再び出産してしまい、この時点で飼育頭数が10頭を超え、ちょうど病気にかかってしまった猫もいて費用がかさんでしまい、不妊手術をしようと思ったが間に合わなくなってしまった。
- 2014年の時点で一度歯止めをかけようとオス10頭の不妊手術をしたが、病気が原因でオス1頭が未手術で残ってしまい、また同時に妊娠しているメス猫もいたため、結果、猫の頭数の増加が止められなかった。
- 保健所に近隣住民からの相談があり多頭飼育が発覚。なかなか当事者本人と接触することができなかったが、2020年に偶然、当事者本人と会うことができ、多数の動物飼養届出書を提出(オス猫10頭(すべて不妊手術済み)、メス猫5頭での届出)。届出時、残りの猫の不妊手術の実施等を指導。
- 定期的に状況確認を試み、通常より安価に手術が実施できる病院、手術のお手伝いをしていただける個人ボランティアの紹介を行ったが、個人ボランティアへの連絡はなく、また当事者本人と連絡が取れない状況となってしまったが、2023年8月に警察からの情報提供・相談により、当事者宅に立ち入ることができた。保健所に正しい頭数を伝えることで猫が取られてしまうと思い、猫の頭数を過小申告していたとの申し出があり、現在の頭数が発覚した。
- 申請に至るまでに、①未手術の猫の不妊手術を実施すること、②手術完了までオスとメスを分けて飼養すること、③猫の飼養場所内外の清潔保持、④疾病等の予防等健康管理の実施、⑤汚物及び汚水の適正な処理、⑥悪臭の発生のないようにすることの6点を指導した。
- 当事者自身も現状に問題があることや不妊手術の必要性を感じている。しかし、現在飼養している猫の医療費等を考慮すると、不妊手術の実施が月3頭ずつ程度になってしまうのと、猫同士の相性や飼育スペースの問題で雌雄を完全に分けて飼養することが困難な状況。まずは早急に全頭に不妊手術を実施し、これ以上の増加を止めるべく、多頭飼育救済支援の申請を決定した。
- 申請時は総数66頭としていたが実際は58頭(うち6頭は手術済)だった。手術対象52頭のうち、50頭が今回の支援によって手術済みとなった。手術前に1頭が病気によって亡くなり、もう1頭は健康状態が悪く手術対象外となったため、最終的に10枚のチケットが未使用となった。支援後に1頭が亡くなり、現場の猫の総数は57頭となった。猫は全頭、当事者が飼養を継続する。
- 健康状態が悪く手術できなかった1頭は治療により健康状態が改善次第、ボランティアの支援のもと、当事者が費用を負担して手術を行う予定である。
- ボランティアによる清掃支援のもと、当事者と配偶者も清掃に取り組んだことで飼育スペースがきれいに、そして広くなったことで猫がくつろいで過ごせるようになった。清掃時に生じたゴミの搬送についても、ボランティア、行政、当事者で実施し衛生環境も改善した。
- 手術した全頭にワクチン投与、ノミダニ駆除を行うことができ、衛生環境が改善されたことで猫の健康状態も改善された。
手術日 | オス | メス | 耳カットのみ | 計 |
10月5日 | 5 | 6 | 1 | 12 |
10月6日 | 3 | 3 | 0 | 6 |
10月19日 | 9 | 3 | 0 | 12 |
11月9日 | 4 | 8 | 0 | 12 |
11月30日 | 1 | 7 | 0 | 8 |
計 | 22 | 27 | 1 | 50 |
今回の取り組みを振り返り、改善すべき点や今後の配慮事項(行政報告書より)
病気で手術できなかった1頭を除き、すべての猫たちに不妊手術・ワクチン投与・ノミダニ駆除を実施することができ、健康状態を改善することができました。
術後に1頭が亡くなってしまい、当事者のショックに配慮して当初の手術予定を延期しましたが、行政、ボランティアで話をし、妊娠中の猫を含めて何とか期日までに手術を終えることができました。引き続き、当事者の状況を定期的に確認し、猫たちの飼養環境の確認をし、必要な助言等を実施していく予定です。
どうぶつ基金スタッフコメント
本件の当事者は適切な医療を受けさせるなどしており、最初に不妊手術さえしておけばこのような状況に陥ることもなく、穏やかに猫と暮らすことができたのではないでしょうか。飼育を開始した当初は、全頭手術済みではないものの猫が増えることはありませんでした。2010年以降の経緯を見ると、当事者は猫の繁殖力の強さを甘くみていたと言わざるをえません。「子猫がほしい」という人間の勝手な希望で繁殖させたことを、爆発的に頭数が増え始めてから後悔しても遅いのです。
また注目すべきは「保健所に猫を取られると思い頭数を過少申告した」という点です。過去の事例でも、増えていく猫に危機感を覚えながらも「保健所に相談すれば猫が殺される」と相談できなかったケースがありました。何十年にもわたって行政が行ってきた「犬猫の引き取り→殺処分」という対応が、皮肉にも多頭飼育崩壊を生み出す一因となっています。保健所や動物愛護センターは動物の命を尊重し、飼い主等の良き相談者となって解決に導く機関であるべきです。殺処分ゼロを掲げて尽力している保健所や動物愛護センターも増えてきましたが、さらなる変化を期待したいと思います。